輝くネオン、行き交う人々、にぎやかな話し声――。ここは夜の東京・銀座。仕事を終えて羽を伸ばす人々であふれるこの街のどこかに、知る人ぞ知るバーがある。看板も目印もなく、雑居ビル内にひっそりとたたずむそのバーには、仕事の悩みを抱えるお客が途切れることなく訪れる。
店主を務めるのは、“やっさん”こと鈴木康弘さん。リクルートグループで採用支援を行い、ベンチャー企業で採用責任者の経験を積んだ後、バーを開業した異色の経歴の持ち主だ。お酒や料理がそろっているのはもちろんのこと、鈴木さんが過去の経験を生かして転職相談に乗っていることが話題となり、キャリア選択に迷う社会人が年齢を問わず集まるようになった。
空前の売り手市場が続き、企業が中途採用に躍起になる今、街を歩いたり、ネットを開いたりすると、「高待遇」「福利厚生充実」「残業なし」とうたう求人広告がいやでも目に入る。そのため「年収は低いし、残業は多いし、会社を辞めようかな」などとモヤモヤとした思いを抱え、鈴木さんのバーにやってくる人も少なくないという。
お客の転職の悩みに対して、鈴木さんはどんなアドバイスをしているのか。転職すべき人と、そうでない人にはどんな差があるのか。意見を聞くべく、筆者もバーを訪れた。取材の途中からは、バーの常連で、都内の某大手企業で人事部長を務めるXさんも参戦。普段は聞けない採用側の本音を語ってくれた。
――昨今は「売り手市場」「人手不足」などが叫ばれ、転職が活発化しています。鈴木さんのお店にやってくるお客さんは、転職についてどんな悩みを抱えていますか。
鈴木: 転職の悩みは人生のステージによって変わってきます。20〜30代前半は「今の環境は物足りない。やりがいのある仕事ができる環境に移りたい」「もっと面白い仕事がしたい」などです。新卒入社する企業を間違えた若者からは「残業が多すぎるので、もっと労働環境がいい会社に行きたい」と悩む声も聞きます。
結婚したり、子どもができたりする人が増える30代半ば以降からは、「忙しすぎるので、家族と過ごす時間がほしい」といった声が聞こえてきます。若い頃に突出した成果を挙げ、高い年収を稼いでいる人でも、「年収を下げてでも家族と一緒に居たい」「プライベートの時間がほしい」と悩むケースがたくさんあります。
ただ、40代に差し掛かり、子育てが落ち着いてくるにつれて、仕事内容に物足りなさを覚えて「もう一度やりがいのある環境でチャレンジしたい」と葛藤する人が増えてくる印象です。50代に入るとその傾向はさらに強まり、結婚前の状態に戻ったかのようにバリバリ働ける会社を求める人も多くなってきます。大企業で部長クラス以上に出世した人が、50代になってから起業したりベンチャー企業に飛び込んだりするケースも何度も見てきました。
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