世の中には「働き方改革」という言葉が溢れている。
多くの企業がプロジェクト化、あるいは専門部署を立ち上げて取り組んでいる。その中のいくつかは、抜本的な施策で、生産性の大幅向上や意識改革に成功しているものの、多くは単なる残業禁止令にとどまっていたり、どこから手をつけていいか分からず、とりあえず他社を追随していたりといったケースも少なくない。
今、働き方改革は転換点を迎えている。過重労働を「防止」する、柔軟に働ける制度を「整備」するといったステージは終わりつつある。
先行する企業は、業務そのものを根底から見直し、社員の力を「本当に(人間が行う)意味のあること」、つまりは「考えること」に結集しようとしている。PC上での作業や確認・チェック、情報収集、ルール化できる範囲での判断などはRPA(Robotic Process Automation)による自動化を始めとしたデジタル技術に代替され、その範囲は日々広がっている。日本企業の「生活習慣病」とも言える大量の資料、長時間(の割りに決まらない)会議の虚しさにも徐々にメスが入ってきた。これまで、「仕事とはこういうもの」だと思い込んでいた流儀が音を立てて崩れている。
働き方改革はどこの企業でも最初はスムーズに進められない。「やらされ感」から形式的な取り組み報告会になってしまったり、業務が変わる、減る不安感から現場の協力が得られなかったりするからだ。しかし、その「壁」を乗り越えた企業は、数十パーセントもの規模で「余力」が創出され、より高度な業務、未来の成長に向けた業務にシフトしている。
壁を乗り越えるには、いくつかのポイントがあると私たちは考える。この連載では、X製作所の経営企画部長・日野下吉郎が、このポイントを身に付けながら、次々に立ちはだかる「壁」にひとつひとつ立ち向かっていく。長年染み着いた仕事のやり方を変えることは容易ではない。いずれもかつては先輩たちが築き上げた最も効率的なやり方だったからだ。
働き方改革の最も大きな成果は、「一人一人が自分事として業務に向き合い、その意味を問い直し続ける組織になること」ではないだろうか。
これは、あなた自身の物語なのだ。
主人公 日野下吉郎(ひのした よしろう)氏
39歳。新卒でX製作所に入社。海外勤務を経て、昨年経営企画部長に抜擢された。
社長 小田信人(おだ のぶと)氏
55歳。3年前より社長。就任時は「20人抜き人事」と話題に。新規分野への投資、組織改革、若手の登用を進め、「小田改革」と報じられる。
X製作所は、東京都千代田区に本社を置く、産業用制御機器、電子機器、部品製造業である。今年創業100年周年を迎え、連結売上高は6000億円、連結従業員数は2万8000人に達する。近年はグローバル市場に成長を求め、海外売り上げ比率は70%に近づきつつある。
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