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本当に同じ店? 外装をどんどん変える「焼肉きんぐ」の狙い大手チェーンなのに(2/4 ページ)

» 2019年03月18日 05時00分 公開
[昆清徳ITmedia]

初期の外装は?

 焼肉きんぐの外装はどのように変化していったのだろうか。外装計画が大きく変わった節目の年に基づいて解説しよう。

 1995年、焼肉きんぐの前身となる「一番カルビ」初期の外装デザインは、調味料の軸となる赤い唐辛子を大きく訴求することで、視覚的なインパクトを狙っている。席数の多い大型店舗なので、焼き肉の看板がなければ和風のファミリーレストランに見えるかもしれない。一番カルビが立ち上がった当時、牛肉の輸入自由化がスタートしており、焼き肉店にとっては追い風が吹いていた。また、当時は個人経営の焼き肉店が多く、ロードサイドのお店で家族が一緒に食べるスタイルは普及していなかった。一番カルビは大ヒットし、競合他社が視察に押し寄せるほどだったという。しかし、類似店が多数出現したため、物語コーポレーションは戦略転換を余儀なくされた。

 02年、同社は差別化のために「和風」を打ち出すことにした。店名をあえて墨文字で「一番かるび」と表記し、ユニホームも和風にした。「高級感」「専門店」というイメージを伝える狙いもあった。外装には焼き肉の王道メニューである「カルビ」「ホルモン」を盛り込み、焼き肉店ということが一目で分かるデザインにした。

食べ放題への転換

 次に、一番カルビの流れを受け継ぎながら、メイン業態として育っていった焼肉きんぐの外装を見ていこう。

 07年、焼肉きんぐの外装に大きな変化が起きる。「バイキング」「食べ放題」「選べるコース2480円」といった看板が店舗の外装を埋め尽くすようになったのだ。道路からみると、店の入口と窓以外は看板だらけという印象を受ける。

 なぜ、このような外装になったのか。家族で焼き肉を食べるという習慣が定着すると、「リーズナブルな価格でいろいろな肉が食べたい」というニーズが高まった。そこで、焼肉きんぐは食べ放題路線を打ち出すが、1つ困ったことがあった。「焼き肉の食べ放題」がどういったもので、どのくらいの価格になるのか、お客がイメージしにくかったのだ。さらに、通常のバイキングではなく、テーブルでお客が注文する「テーブルバイキング」ということも伝えたかった。このように、伝えたいメッセージがどんどん増えていった結果、使う看板の面積も広くなっていったのだ。

photo 看板だらけの外装(提供:物語コーポレーション)

 13年になると、焼肉きんぐは“シンプル路線”にシフトしはじめる。業態や業種が分かる情報を明確に打ち出すのは変わらないが、看板の面積は明らかに狭くなり、店舗の壁が見えるようになった。造りは和を基調としたものに変更し、ファミリー層がもっと入りやすくなるデザインを目指した。15年になると、外装はさらにスッキリとする。「食べ放題」といった文言は残っているのだが、外装に占める看板の割合はさらに減った。全体的に、伝える情報をそぎ落としたのだ。

 外装がどんどんシンプルになっていたのには理由がある。「焼き肉食べ放題」のスタイルが浸透し、「1人3000円も出せば大丈夫だよね」という価格のイメージも共有されるようになった。スマートフォンの普及によりお客が来店前にお店をリサーチするのが一般的になった。あえて看板で説明する必要性がなくなってきたのだ。また、伝えるメッセージが多すぎると「この店は肉に自信がないのでは?」と捉えられてしまう可能性もあった。

 17年、“シンプル路線”はさらに進化する。外装は「黒」と「和風」を基調としたデザインとなり、看板の情報量が激減した。「肉」や「焼肉きんぐ」という文字が大きく強調され、「食べ放題」や「価格」の存在感が相対的に低下した。かつてのような細かい説明は省略されている。「本格的な肉を提供するお店」というメッセージを出す狙いがある。

 このように、約20年の間で外装計画は5回近くも変わったのだ。

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