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週100時間以上働くエリートほど出世しない理由「お金」と「仕事」の本当の話をしよう(2/4 ページ)

» 2019年03月20日 05時00分 公開

3000円の弁当を5分で食べる

 筆者自身、大手企業の株式上場やM&Aのアドバイザーをしていた時期があったが、案件が動いているときには週末返上で働いており、1日の平均睡眠時間は3時間弱だった。スマートフォン内蔵の目覚まし時計を「2時間47分」後に鳴るようにセットしていたのは、1分でも長く寝ていたいからだ。また、寝過ごしてしまう場合に備え、別のタイマーを「3時間10分」後に鳴るようセットしていた。歯磨きとシャワーの時間を犠牲にしたら出社に間に合う時間を計算していたのだ。基本、ずっと事務所や客先の会議室に缶詰め状態だった。

 仕事中、空腹になれば3000円くらいの出前を会社経費で頼むが、期限に追われてゆっくり味わう時間などない。届いたら書類とにらめっこしながら(でもタレやしょうゆが書類に飛ばないかドキドキしながら)まるで牛丼をかきこむように5分程度で食べ終える。有名店の出前もあったが、それをおいしいと感じた記憶は、一度もない。

 常に眠気に襲われているのだが、仕事を終えてから床につく前に、早朝まで開いているBARか自宅で強めの酒を30分ほど飲む。酔いたいからではなく、起きたらまた怒涛の1日が始まるからこそ、「精神的なワンクッション」をおいてからその日を終えたいがためだ。

 2011年、ニューヨークを訪れた母が私のありさまをみて、「葬式みたいな顔をした鬱(うつ)の人」などと半分冗談めかして、でも心配そうに言っていたのを今でも思い出す。

出世するエリートとしないエリートの分かれ道

 今の時代、「エリート」はもはや誉め言葉ではなく、いわゆる「英才教育」に飼いならされている人のことを指すのかもしれない。小学校4年から週3回、夜10時まで塾に行き、中高一貫の進学校に通い、大学や大学院もトップスクールを出る。そして当然のことのように横文字の名門ファームに就職するのだが、その時に知っている「処世術」はたったの1つしかない。「出された宿題は、100点満点を目指して期限内にこなすのは当たり前。さもなくば落第」という、強迫観念に満ちた処世術だ。

 驚いたのは、私が見る限り、そういう「型にはまったエリート」こそがたいして出世できていない事実だ。昇進できず、組織やクライアントに対する愚痴を言いはじめ、それでいて勇気を出して独立や転職もせず、うだうだしている。

 そういう彼らも、「外資系コンサル」や「弁護士」といった職種自体にはある程度のやりがいを感じており、自分の地頭の良さや体得したスキルがあってこそこなせる仕事だという自負も持っている。ただ、完璧主義を貫きすぎて心身が疲弊してしまい、仕事と自分の困憊(こんぱい)状態とをセットにした「日常全般」を、嫌いになってしまっているのである。

 無限に仕事を与えられても、学生時代に長らく自分を支配してきた強迫観念により完璧を目指そうとする。それでも、限界に達した身体と心はだんだん言うことをきかなくなり、「あれ、自分が生きてる目的ってなんだったっけ?」という素朴な疑問を抱くようになる。結果、目的意識を失った疲労困憊のエリートは、可でも不可でもない、「そつない仕事」を期限だけは死守してこなすようになる。

 そして「そつのない」出来栄えだからこそ、社内や業界内で存在感がかすんでしまう。クビにはならないが、昇進にも結び付かない。

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