このミスリードが、先人たちが阻止してきた「移民政策」にかじを切らせたことは言うまでもない。外国人労働者を増やしても「雇用ミスマッチ」が解消されず、国内の労働者の低賃金が固定化されるのは過去の欧州を見れば明らかだ。にもかかわらず、日本は踏み切った。「人手不足は労働者の頭数が減ったからである」という思想が社会の隅々まで浸透している証左だ。
といっても、この傾向は今に始まったことではなく、日本人の伝統的な労働観に基づく部分も大きい。歴史を振り返ると、この100年余り、日本は低賃金労働者が必要になるたびに、「人手不足」の恐怖をあおって、ちょいちょい外国人労働者を入れてきた。1917年に「労力の輸入」として、北海道や九州の炭鉱に朝鮮人労働者を採用したのもそうだし、その後の「徴用工」も同じ発想だ。
バブル期、「人手不足倒産」という言葉が誕生した時もしかりである。『中小企業、難民めがけて求人殺到 偽装・片言「構わない」』(朝日新聞 1989年9月3日)という記事に登場する林業や建設会社の経営者は、日本に漂着したベトナムや中国の難民を雇いたいと訴え、こんなことをおっしゃっている。
「日本の若者は力仕事の多い第1次産業を敬遠する。健康な人なら日本語が不自由でもどんどん雇いたい」
「片言の日本語か、英語が話せさえすればいい」
30年前から「人手不足」の構造が変わっていない以上、この春から来る「外国人労働者」に対しても同じような感覚で扱うのは容易に想像できよう。
外国人実習生、じゃぱゆきさん、外国人留学生など、実は日本は既に30年近く「外国人労働者」に依存してきた。それでも結局、「人手不足」は解決されず、むしろ悪化していることからも分かるように、問題の本質は「労働者の数」ではないのだ。
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