背景には、個人の資産運用で重要な「長期投資」の難しさがある。株式を中心とした資産運用では、分散した資産を長期に運用することで、リターンが平準化され安定した結果をもたらすとされている。たとえリーマンショックの直前に資産運用を始めても、10年間売らずに持ち続けていれば、しっかりとリターンが出ているというグラフは、さまざまなところで紹介されている。
「王道の資産運用の中で一番難しいのが長期投資。どんな方法がいいかよりも、長く続けるのが難しい。実際、日本の投資信託の平均保有年数は3年くらい。長期投資は10年、20年単位なのに3年という短い期間になっている」(牛山氏)
長期投資のつもりで始めても、途中で値段が大きく下がると不安になり、結局最も安いときに売ってしまう。長期投資でやっていこうと思っていたのに、それが続けられない。
この「不合理」ともいえる行動を、AIを使ってどうサポートするか。「ユーザーを理解する。理解できればその人が次にどんな行動を取るかが分かる。それが分かれば、不合理な行動をしないように働きかけができるのではないか」(牛山氏)
研究では、ユーザーの行動データを中心に大量のデータを集め、普段とは違った行動を見つける「異常検知」という方法を使った。
「不合理な行動を取るときに何を考えているのか。投資の中断を決意した結果、投資を中断するが、そのきっかけは何だったのか。原因となった、通常とは異なる行動パターンを見つけられれば、中断前に対応できる」(牛山氏)
アクセス回数や普段見ない画面へのアクセスといった行動データを、機械学習のモデルにかけて異常値を見つける。6つのモデルについてスコアリングを行い、通常との違いを示す異常スコアをAIで導き出す形だ。この異常スコアの高いユーザーに、中断を思いとどまらせるようなアドバイスを行う。
例えば、普段と違う深夜などに何度も運用成績をチェックしたり、出金画面にアクセスしたりといった行動が続けば、その人は投資を中断しようかと悩んでいるのではないかと推定できる。その時、メールやアプリのプッシュサービスを使い、長期投資のメリットを改めて説いたり、今後の株価の見通しを伝えることで、投資の継続を促す。
異常検知には機械学習を利用しているが、これは全体のデータの中から異常値を見つけるというアプローチ。投資を中断した人がどのような行動をしていたのかを学習させる手法とは異なる。「幸いなことに解約率が低いため、投資を中断した人のデータが少なく、教師あり学習の手法が使いにくい」(牛山氏)という。
この研究成果を実際に活用していく時期は未定としたが、実際に投資を中断してしまう人のほとんどは、異常検知から予測できる手応えがあるという。
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