大沢牛乳が創業した当初は、牛乳、コーヒー牛乳、フルーツ牛乳など5種類ほどしか販売していなかった。1950〜1965年ごろには1日1万本以上売れる日もあったという。ミルクスタンドまで牛乳を入れた木箱をかついで何度も運ぶ必要があったため、従業員の肩には大きなこぶができていたと当時を知る従業員は語る。
牛乳の品ぞろえを強化し始めたのは今から20年ほど前からだ。稲村氏は「東京にはさまざまな地方から出てきたお客さまが住んでいます。地元の牛乳を飲みたいというニーズに対応するとともに、さまざまな味の違いを知ってもらう狙いがあります」と説明する。北は北海道から南は熊本県まで、さまざまなご当地牛乳を販売している。
大沢牛乳では、店員とお客のコミュニケーションを大切にしている。例えば、駅ナカという立地の特性上、通勤や通学のために毎日同じ人がミルクスタンドの前を通り過ぎる。そのため、常連が多く、毎日のように利用するお客もいる。店員はなじみ客に対して「今日はどれにする?」と声をかける。特に注文する商品が決まっていないようだと、「この牛乳がおいしいですよ」と推奨する。稲村氏は「飲んだことのない牛乳の良さを知ってもらうことで、人気を創出する狙いがあります」と説明する。
小学校や中学校の給食で提供される牛乳は高熱で殺菌されていることが多く、本来の風味が損なわれがちだ。また、酪農家が生産した生乳を集めてメーカーの製造工場に運び、牛乳が生産されるまでにはどうしても時間がかかってしまう。これは、スーパーで安売りされている牛乳も同様だ。
品質を安定させて、手ごろな価格で大量に供給するためには仕方のないことなのだが、こうした牛乳を子ども時代に飲み続けた結果「牛乳の味ってこんなものだよね」と思い込んでしまう。こういった“刷り込み”がされたお客に対し、少々高いが違う味わいの牛乳があることを伝えようとしている。
つまり、あまり流通していないこだわりの牛乳を提供することで「ミルクスタンドでおいしい牛乳を飲んで、ほっとする」という体験を提供する狙いがある。
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