こうして、とんとん拍子に話は進み、17年4月にカワラナをオープンすることが決まった。
会社は副業することをあっさりと認めてくれた。社内のルールに従って申請をした後、役員に「瓦割りビジネスをする」と説明したところ、半ばあきれた様子で「へー、そうなんだ。気を付けなよ」とコメントされたという。
開業にあたって、川口さんは綿密なマーケティングプランを作成しなかった。もちろん、最低限の収益に関するシミュレーションはしたが、事業計画書のようなかっちりとした資料は作成していない。
川口さんは12年に結婚しており、ずっと共稼ぎの状態だった。開業に当たって奥さんに「とりあえず1年間はやらせてほしい」と頼んだところ、応援してくれたという。転職や起業を妻に反対される「嫁ブロック」が発動しなかったことは幸運だった。
お店はガレージを簡単に改造した程度なので、大きな設備投資は必要ない。仕入れた瓦は腐らないので、廃棄ロスもほとんど発生しない。主なコストは家賃と自分の時間だけ。シンプルなビジネスモデルだからこその身軽さも開業を後押ししたのかもしれない。
狙っていたお客は海外のバックパッカーだったので、川口さんは近隣のホテルにお店のビラを置かせてもらった。また、いくつかのサイトに広告を掲載し、告知に努めた。
開業当初、お店は暇だったという。「カワラナ」という垂れ幕が出ており、瓦がうず高く積まれているので「何をやっている店なの?」と声をかけてくれるお客はいたが、売り上げはほとんどなかった。おまけに、人通りが少ない場所に出店していたため、集客に苦しんだ。
1カ月ほど経過すると、川口さんの知り合いが関係する地元メディアが取材に来てくれた。ビジネスモデルの珍しさから、その後もぽつぽつとメディアに取り上げられるように。こうして、お店の認知度は徐々に高まっていった。
開店から4カ月後、とある女子プロレスラーがカワラナで瓦割りをした体験をtwitterに投稿したところ、「インスタ映え」するということで大いに話題になった。多い時には1日に70人以上のお客が瓦を割ったという。その後、お店はずっと黒字の状態が続いているが、外国人観光客の割合は1割程度だという。
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