―― ITを活用した本質的な改革を推進するための中心組織として、IT部門をどのように変えていこうと考えていますか。
喜多羅氏 IT部門に限らず、あらゆる組織の育成は、基本的に子育てと同じだと思っています。一度言っただけで分かるものではなく、何十回、何百回と同じことを言い続ける必要があります。特に重要なのは基礎の部分。基礎ができていない人に応用はできません。
繰り返しになりますが、IT部門の仕事の基礎は、やはりプロジェクトマネジメントとサービスマネジメントです。この両輪がしっかりかみ合って回っていないと、プロジェクトが達成すべき目的を見失ってしまいます。実際、社内の業務現場の人たちから「こんなデータも見たい」「こんな機能もほしい」といった要望を次々に出されたときに、明確な判断基準がないためにプロジェクトがどんどん膨れ上がり、結局は頓挫してしまったといった経験をされた方も多いのではないでしょうか。
プロジェクトマネジメントとサービスマネジメントの方法論の中で「どうあるべきか」を議論し、現場で実際にサービスを使う人にも納得してもらい、常に基礎に立ち返りながら応用を考えることが、IT部門としての仕事の骨格です。
―― どうすればIT部門全体に「同じ目標意識」を徹底できますか。
喜多羅氏 IT部門を同じ方向に向かわせることができるかどうか――。その成否の90%以上は、プロジェクトのメンバーを束ねるリーダーに委ねられます。もっとも、そうしたリーダーの育成は1年や2年でどうにかなるものではなく、日々の業務の中で継続的に人材を磨き上げていくしかありません。
リーダーを育てる上で大事なことは、「失敗から学べるようになってもらうこと」です。どんな優秀なリーダーでも失敗します。むしろ、今のような変化の激しい時代には、成功するよりも失敗することのほうが多いのではないでしょうか。そこで大切なのは、失敗したときに客観的事実から原因を検証し、新しい知見をもとにプロジェクトを再び軌道に乗せられるようになること。リーダー自身が学習を継続するしかないと考えています。
リーダーは、失敗したり、恥をかいたりすることを恐れてはいけないと思います。“人としての幅”を広げるためには、何歳になっても「できないことにチャレンジする姿勢」が、とても大事なのです。一定の年齢や立場になると、そうした経験がどんどん減っていくので、恥をかいたり、“知らない”と言うことができなくなるものです。でも、そこで立ち止まれば、自分自身の成長にキャップがかかってしまいます。リーダーの持っているキャパシティーは組織力に大きく影響しますから、リーダーは常に自らのスキルを高めていく責任があります。
Appleの故スティーブ・ジョブズ氏も、2005年にスタンフォード大学の卒業式で行った“伝説のスピーチ”の中で、「コネクティングドッツ」(点と点をつなぐ)という言葉を示しています。過去にカリグラフィー(文字を美しく見せるテクニック)を学んだ経験(点)が、Macintoshという新たな点と結びつき、フォントが創造されたという経験によるものです。
ジョブズ氏は、フォントを生み出すためにカリグラフィーを学んだわけではありません。このように、「後で何が生きてくるか分からない」のが人生です。新たなドットは自ら探しに行かなければ決して得られず、つながるドットを増やさなければ新たなアイデアも生まれてきません。
「書を捨てよ、町へ出よう」ではないですが、自分の置かれている環境を意識的に変え、新たなドットを探していかないと、リーダーの成長は止まり、ひいては組織の成長も壁に当たると考えています。
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