クルマはどう進化する? 新車から読み解く業界動向

スープラ ミドルスポーツの矛盾構造池田直渡「週刊モータージャーナル」(5/6 ページ)

» 2019年06月17日 07時10分 公開
[池田直渡ITmedia]

スープラに乗る

 さて、長い話を終えて、実際にスープラに乗る。試乗したモデルは3種類。3リッターツインスクロールターボの6気筒(340馬力/500Nm)と、同じくツインスクロールターボで加給圧が異なる4気筒2種(258馬力/400Nm・197馬力/320Nm)。車両重量は1410〜1520キロ。エンジン出力順に上から19インチ(RZ)、18インチ(SZ-R)、17インチ(SZ)のホイールが与えられる。トランスミッションは全て8段トルコンステップATという構成になる。ちなみに風のウワサによるとMTも検討はしている模様だが、おそらく既存のトランスミッションにトルク容量を満たすものがないので、採算をどうやって合わせるかが課題なのだと思う。

 冒頭で述べた通り、ホイールベース/トレッド比のディメンジョンは1.55。前後重量配分50:50。これを実現するためにフロント部分にアルミを多用して軽量化を図っている。

FRレイアウトでは主要コンポーネントはフロントに集まるため、フロントの構造体の多くをアルミに置き換えるなどして前後重量配分を50:50にした

 自慢の「1.55」は、かなり極端な数字なので、よく曲がることには寄与するだろうが、普通に考えれば神経質になって直進安定性が足りなくならないか、と不安になる。同じ不安はトヨタ本社も感じたらしく、チーフエンジニアに対して「十分な直進安定性があることを確認せよ」と指示が出たという。そのためにかなり大きな予算を組んで試作車を作り、本社でのテストを経てようやくGOサインが出たとのこと。

 これだけ振り切ったディメンジョンが採れた理由は、曲がる性能を「1.55」で確保し、0〜100%のトルク伝達可変機能を持たせた電制デフで、細かく補正をかけながら直進安定性を確保し続ける仕組みだからだ。航空機でいうCCV(Control Configured Vehicle)と同じ考え方だ(Wikipedia参照)。

 走り始めると、まずこの種のクルマとしては望外に乗り心地が良い。発進時や緩加速でのトルクデリバリーのマナーも良い。多少の視界のハンデを覚悟すれば毎日の下駄に使っても不自由は感じないはずだ。

 高速道路での合流加速程度では、どのエンジンであっても十分に速い。「馬力が多い方が好き」という人でなければ197馬力で十分。むしろ低負荷域での17インチタイヤの素直な素性と、鼻先の軽さを経験すると、ダイナミック方面ではSZが一番好ましく感じた。ただし装備の差はそれなりにあるので必要とする装備があるかどうかはよく検討されたい。しかも、出来が良いかどうかは「4気筒はスープラなのか?」という神学論には埒外の話だ。チーフエンジニア自身が「4気筒モデルは別の名前で出した方が良かったかもしれない」と言っている。

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.