クルマはどう進化する? 新車から読み解く業界動向

スープラ ミドルスポーツの矛盾構造池田直渡「週刊モータージャーナル」(3/6 ページ)

» 2019年06月17日 07時10分 公開
[池田直渡ITmedia]

スポーツカー変遷史

 少し定義を緩めて、純粋性の高い量産ライトウェイトスポーツカー、例えばかつてのMGやマツダ・ロードスターあたりまで「ピュアスポーツ」だと拡大解釈したとしてもやはりちょっと辛い。

 そもそもこうしたライトウェイトスポーツの系譜は、衝突安全や排ガス規制で一度絶滅した。規制への対応のために大型化を受け入れた結果、スポーツカーはほぼ全てミドルスポーツへと変遷していった。価格も上昇するため、当然豪華さも求められ、スポーツカーとスペシャリティカーの境目が不明瞭になっていく。それが70年代のトレンドだった。ポルシェでいえば924。日産のフェアレディZもトヨタ・セリカもその時代に生まれた。スープラの祖先であるセリカXXもまさにそうしたトレンドを背景に誕生したクルマである。

 この時代のスポーツカーやスペシャルティーカーは、少しでも出力の大きいエンジンを積んで高速化を目指した。となれば大きく重くなる。

 そうした流れに逆行して、現代の技術で何とかライトウェイトスポーツを復権させられないものかとトライしたマツダ・ロードスターがとりわけ異様なのであって、ロードスターはど真ん中のスポーツカーでありながら、同じジャンルにライバルがいない特殊なクルマになっている。

 さてスープラとは何か? の話に戻ると、やはり先祖の特徴は継承しないとスープラではなくなる。チーフエンジニアはそれについて「直6FRでないとスープラではない」と言う。それは市場がスープラに持つパブリックイメージであり、トヨタ自身にも何ともできない問題だ。だからロードスターのようなライトウェイトスポーツではなく、ミドルスポーツカーの文脈を踏襲しなくてはならない。

エンジンは車軸上、直6では一切オーバーハングさせない設計は難しい

 ところが、70年代と違って、今では高速化に意味を見出すのは難しい。80年代には大衆車でも180キロのリミッター速度に達することが珍しくなくなり、乗用車とスポーツカーを最高速度で差別化することができなくなった。だったらミドルスポーツカーとは何なのか?

 そうして日本の量産スポーツカーは混迷の時代に入る。70型スープラと80型スープラのキャッチコピーを比較すると面白い。前者は「TOYOTA3000GT」であり後者は「THE SPORTS OF TOYOTA」。

 TOYOTA3000GTは明らかに高出力化高速化の文脈にある。言葉が定義するのは大排気量エンジンのハイスピードクルーザーであり、それゆえに自覚的であるかどうかはともかく「GT」を打ち出した。ところが、70と同じ切り口を、80は継ぐことができなかった。新しい時代の価値に「THE SPORTS」、つまり「これぞスポーツカー」という言葉を組み入れた。そしてそれが定義するものはあまり明瞭ではない。

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