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ピアプレッシャーという“病巣”――「休暇制度の充実」だけでは働き方改革を実現できない「無制限の有休」は奏功しなかった(3/5 ページ)

» 2019年06月18日 07時45分 公開
[生駒一将ITmedia]
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休暇を取りにくい環境への対策が「啓蒙」だけで十分か?

 国や企業が認める休暇制度が実際に利用されるようになるためにはどうしたら良いのか。これは日本でもかなり議論されてきた問題だ。

 例えば育休に関していえば、政府は「イクメンプロジェクト」という名目で積極的に育児に参加する「イクメン」を応援し、「育休を取得しやすい」環境づくりを推し進めた。また19年4月から施行された働き方改革関連法案でも、年に5日以上の有休取得が義務化されたように、休みを取らせることに積極的な姿勢を取っている。

 確かにこのような制度のおかげで、多忙の中でも休暇を取ることが可能になった。しかし、果たして「休暇を取りにくい雰囲気」そのものの解決策にはなり得るのか。

 一般的に休暇を取らせまいとする、または休暇を取る社員に陰で冷たい視線を向ける「ピアプレッシャー」の根底には、業務が滞ることへの他社員からの不満が潜んでいる。米国企業が家族支援型の福利厚生によって休暇制度以外の支援を充実させている理由の1つには、そういった不満が社員同士で生まれないようにする意図があるのだ。

 例えば先述のキャンベルが抱える保育施設やスターバックスと提携したCare.comのサービスは、社員自身が業務から離れることなく子育てができる環境を整備する面で、大きな役割を果たしている。社員は子どもに何かあったときでも仕事を抜けることなく安心して対応できる環境があるため、結果的に同じ業務やプロジェクトに関わるメンバーへもメンツが保たれるわけだ。

photo スターバックス社員が利用するCare@Workのウェブページ(スターバックスのWebサイトより)

 このようなバックアップ制度は、実際に休暇を取得した社員が復帰する際にも効果的だ。例えば子どもを預けられる環境があれば、出産後の母親は比較的早期に職場に復帰することができ、俗に言われる「休暇ボケ」の症状を軽くすることができる。

 数年前に日本で話題を呼んだ「資生堂ショック」も、子育てと仕事を両立する社員の時短勤務が独身社員への業務のしわ寄せにつながり、同社が制度を見直した話として記憶に新しい。制度を利用する社員が罪悪感を覚えることなく、またそれに配慮しなければならない周囲の社員も、なるべく不満に感じないような施策は次々と実施されている。

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