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ワンマン社長の奴隷、3500万円の借金地獄――“31歳無職の男”は「伝説の居酒屋カリスマ」にどう成り上がったのか【前編】熱きシニアたちの「転機」(2/4 ページ)

» 2019年06月28日 05時00分 公開
[猪瀬聖ITmedia]

レンタルビデオ店を起業

 当時、レンタルビデオ店が普及し始め、山本さんもよく利用していた。だが、わざわざ店に借りに行ったり返したりするのは面倒。しかも、アダルトビデオだったら、借りるのは恥ずかしい。みんなおそらくそう思っている。だったら、それを商売にしよう。ビデオ店の店主に掛け合い、ビデオの宅配事業を始めた。「ファミリーアート」という社名を付け、ロゴまで作った。アダルトビデオでも抵抗なく注文できるよう、作品に番号を付け、番号で注文できる工夫もした。

 社員は山本さんだけ。アパートの郵便受けにせっせとチラシを入れ、注文を受けたら、ビデオ店から正規のレンタル料より安い1本500円で借り、通常料金の800円で又貸しする。差額の300円が儲(もう)けになった。ビデオ店にとっても、営業してくれるので助かる。多い月は500本ほど注文が入り、15万円ぐらいの稼ぎになった。しかし、繁盛しすぎてビデオ制作会社の耳に入り、著作権侵害の疑いがあると警告を受け、店を閉めた。

 大学3年の時、人生最大の転機があった。アルバイトをしていたパブスナックに、ある日、山本さんが後に「社長」と呼ぶ男が、高級外車で乗り付けた。学生ながら店長を任されていた山本さんに、社長は「飲め」と言って、ウイスキーをストレートで何杯も勧めた。社長は山本さんを気に入った様子だった。グダグダに酔った2人は、店を閉めた後に居酒屋に場所を移し、朝まで飲んだ。社長は「俺は地球を宇宙から見ている」などと訳の分からないことを延々としゃべっていたが、そんな社長になぜか興味を持ち、社長1人でやっていた中古車のブローカーの仕事を手伝い始めた。

 だが、ブローカーの仕事は嫌でたまらなかった。オークションで安く仕入れた素性のよく分からない車だらけで故障が多く、客からのクレームが絶えなかった。そんなある日、社長と飲んでいたら、社長が突然「これからは携帯だ」と叫び、「営業に行ってこい」とその場で命じられた。わけが分からなかったが、営業は嫌いではなかったので、山本さんはハイと返事をした。

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