リテール大革命

バーチャルYouTuberが接客 創業127年の老舗・萩原が挑む、新世代の集客術(1/3 ページ)

» 2019年06月30日 11時00分 公開
[広田稔ITmedia]

 バーチャルYouTuber(VTuber)といえば2018年、大きく注目を集めた存在だ。キズナアイを始め、トップ層はテレビ番組やリアルイベントに出演するなど、ネットの世界を飛び出して活躍している。エンターテインメントの色が強いVTuberだが、キャラクターをリアルタイムで動かすという技術を活用し、実はビジネス現場での導入も始まっている。

 例えば、ショップ店員をアバター化するアドパックの「バーチャルプロショッパー」など、店頭に置いたディスプレイに3Dアバターを表示して接客する事例も出てきた。これに似たソリューションでは、AIサイネージもあるが、商品の詳細を聞きたかったり、人間的な対話を求めたりすると、まだ「魂」として人が入っていたほうが精度は高い。

 PANORAというVR・VTuberメディアを運営する筆者は、この6月よりVTuberを活用した店頭集客サービスを提供している。その第1弾として広島県広島市にあるアウトレットモール「ジ アウトレット広島」にあるインテリアショップ「はぎもの舎」(はぎものや)に、VTuberの「みみたたろう」さんを派遣しており、6月30日が最終日となる。

インテリアショップ「はぎもの舎」の店頭で集客を行う「みみたたろう」さん

 まだ新しくてノウハウの蓄積がないジャンルだが、将来の店頭集客手段を増やす可能性も大きい。今回の取り組みを実施してくれた萩原株式会社の代表取締役社長、萩原秀泰氏に話を伺った。

いかにお客の足を止めるか

 萩原は、創業1892年、岡山県倉敷市に本社を構えるインテリア・家具メーカーだ。卸売業として、い草、籐(ラタン)、アバカなどの自然素材製品をはじめ、オリジナルのインテリア製品、家具などを全国のさまざまな小売店に収めている。

 さらに新規事業として、手触りのいい「SOFTILL」(ソフティル)という新素材を開発し、ルームシューズやクッションとして製品化。2015年12月東京・浅草を皮切りに、広島の実店舗、さらにオンラインショップとして「はぎもの舎」を立ち上げて、製造から流通まで自社で一貫して提供できる体制を整えた。

 萩原氏によれば、その広島の店舗で課題になっていたのが、いかにお客さんの足を止めるか。SOFTILLを使ったクッションは、実際に手に取ればその心地良さが分かるものの、なかなか触ってもらえない状況だった。

新素材「SOFTILL」を使ったクッション。(いい意味で)人をダメにする心地よさ

 アウトレットモールの客層は、訳ありで安い品を決め打ちで探したり、なんとなくウィンドウショッピングをしたりといったケースが多い。しかし、ジ アウトレット広島は約200店舗と店舗数が多く、はぎの舎で扱っているクッションやルームシューズは買い替え頻度がそこまで高くないこともあり、通りがかりの人にスルーされることも多かった。

 そこで狙ったのは、子どもの足止め作戦だ。親子連れの子どもが興味を持って集まれば、一緒にその親も立ち止まってくれて、商品に触ってもらえるきっかけがつくれる。そうした予測をもとに、過去には子どもの目線に入るようにSOFTILLをプールに満たして興味を引く施策を試みたこともある。その結果、実際に親子連れが立ち止まってくれたものの、片付けなどの運用コストが高かった。そこにたまたまVTuberを使った集客手段があるということで、6月9日から4週連続、日曜日に実施することを決めた。

 今回出演する「みみたろう」さんは、「ふわふわのいきもの」を名乗るキャラクターで、そのコンセプトは商材であるクッションとの相性が良い。普段は中学受験を控えた子ども向けに授業動画などを投稿しており、2019年2月、テレビ番組「マツコ会議」でVTuberを特集した際に取り上げられたことで注目を集めた。

 仕組みとしては、ビデオチャットとほぼ同じだ。店頭側に大型テレビとWebカメラ、マイク、スピーカーを置き、インターネットを通じて遠隔で「みみたろう」さんが出演し、目の前にきた子どもたちと話をしてもらう。お話ししてくれた人には、ネットに投稿してもらうために一緒に写真を撮ったり、はぎもの舎のことを思い出してもらうために缶バッジを渡したりする流れだ。

 従来の集客手段でいえば、きぐるみや芸能人を店頭に呼ぶのと近い。着ぐるみと比べると、物理的な運搬が不要で、かつお客さんと話せるのがメリットだ。また、控室や交通・宿泊費も不要になる。逆にインターネットや電源のないところでは実施できず、握手やタッチなどの触覚で訴えられないのがデメリットになる。

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