創業したチェーン店を次々と成功させ、今では飲食業界のカリスマと崇(あが)められる山本浩喜さん(56)は、チェーン店を始める前の31歳の時、約10年、奴隷のように仕えたワンマン社長の元を去り、岐阜の実家に戻って一人、焼き鳥の研究を始めた。しかし、そんなすぐに開業できるほど甘くはない。かといって、毎月30万円ずつ借金を返済するためには、何かして稼がなければならない。思い付いたのが、パチプロになることだった。
毎日、近所のパチンコ店に朝10時から夜10時まで入り浸った。だが、毎月30万円も勝つのは至難の業。そこでまた、アイデアがひらめいた。ある日、年齢がちょっとだけ上のパチンコ店の店長を居酒屋に誘い、悲惨な身の上話を散々話して聞かせた上で、こう懇願した。「さすがに出る台を教えてもらうわけにはいかないけれど、せめて、出ない台に僕が座ったら、サインを送ってくれませんか」と。
以後、毎月60万円ほど勝つようになり、借金を返済しながら貯金もできるようになった。定期的に店長を飲みに連れて行き、接待することも怠らなかった。
焼き鳥の研究は夜中にコツコツ進めた。自分が納得するおいしいタレをつくるため、全国各地からいろいろな種類の砂糖、醤油(しょうゆ)、みりんを買い集め、毎日、実験を繰り返した。
山本さんは「飲食は科学」と断言する。「レシピを作るのは科学の実験によく似ている。材料の種類や分量、火を通す時間などを少しずつ変えながら、同じことを何度も繰り返し、再現性が確保できたら、初めてレシピにする。適当につくればよいというわけではない」と考えるからだ。それは前編で触れたように(関連記事を参照)、知識ゼロで携帯電話の製造にかかわった経験から山本さんが学んだことでもあった。
さらに山本さんは、「職人は経験で調理をするが、それだと、その職人が辞めたら店の味も変わってしまう。だから僕の店に職人は置かない。今日から働き始めたパートが作ってもまったく同じ味になるのが理想」と、山本流成功レシピの一端を明かしてくれた。
その成功レシピは、最近、東京・人形町にオープンした十割そば専門の「天下そば」にも生かされている。小麦粉を一切使わず、そば本来の味わいを出す十割そばをおいしく打つには、熟練の職人技が必要だ。しかし、山本さんは、その職人技を最新のテクノロジーを応用した機械で再現することを試みた。ネット上での評判は上々だ。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
Special
PR注目記事ランキング