ハロが誤作動したら? スペースコロニーの行政とは?――ガンダム世界の“社会問題”を分析元日銀マン・鈴木卓実の「ガンダム経済学」(2/4 ページ)

» 2019年07月30日 07時00分 公開
[鈴木卓実ITmedia]

 スペースコロニーが決して夢物語とは言えなくなってきた今。かつては妄想となどと笑われたような稀有(けう)壮大な構想が、現実の科学技術の発展に貢献して経済社会を大きく変えることは幾度も起きてきた。飛行機や電信・電話の発明が分かりやすい事例であるし、ジョン・F・ケネディの宇宙開発計画も代表的な例だ。もっともその後、予算削減で仕事が減ったロケットサイエンティストが職を求めて金融分野に流れたことで、金融工学が発展する一助を担ったという話を聞くと、複雑な心境になるが……。

 実は、日本でも「ムーンショット」と呼ばれる、従来の技術の延長にはない挑戦的な研究開発を推進するため、政府主導で「ムーンショット型研究開発事業」が19年にスタートした。国立研究開発法人科学技術振興機構が運営するサイトでは、「未来社会を展望し、困難だが実現すれば大きなインパクトが期待される社会課題等を対象として(中略)、研究開発を実施します」と宣言している。宇宙開発に限定される研究開発ではないものの、夢がふくらむ事業である。

 「ムーンショット型研究開発制度」ビジョナリー会議の構成員には、SF作家の藤井太洋氏やメディアアーティストの落合陽一氏が名を連ねている。クリエイター畑の人材を入れた点からは、従来型の研究開発制度との違いが見て取れる。一般のプロジェクト以上に、認知的な多様性が重要だからだろう。

ハロが誤作動! 責任は誰に?

 次に取り上げたいのは、ガンダム作品のコアとも言える「ロボット」だ。MS(ガンダムファンは「ロボット」とあまり呼びたがらないが……)がまず思い浮かぶが、シリーズで主人公たちと日常生活をともにするマスコット、ハロも欠かせない存在である。既に現在、ロボット法やAI法と呼ばれる分野では、産業だけでなくヒトの生活に関わるロボットやAIの普及を見据えた法制度を検討し始めている。科学技術が「夢物語」の実現に向けて進む一方、社会科学でも少しずつではあるが、未来の世界を想定した研究が進んでいるのだ。

photo ガンダムシリーズを通じてマスコットキャラとして愛されるロボット、ハロ。こちらはラテアート(提供:ゲッティイメージズ)

 例えば、このハロが誤作動して問題を起こした場合、責任の所在はどこにあるのだろうか。ロボットの規則を定めた古典としてはアイザック・アシモフのロボット工学3原則が有名だが、このような問いへの解答はまさに「ロボット法」の領域が該当する。

photo アシモフのロボット工学3原則

 ハロの機能は多岐にわたる。仕組みは定かではないが、アムロの疲労具合を評価することもあれば、脳波レベルを「優良」などと測定することもある。この程度であれば、誤診する可能性を考慮して、あらかじめ免責条項を設けておけば済む。しかし、例えばハロに「自由にして良い」と命令した際に、人間の身体や財産に被害が生じた場合の責任は、所有者にあるのか、ハロを製造・販売したメーカーにあるのか。

 ハロは衝突回避など危険を避ける能力に欠けている割には行動範囲が広そうなので、自由に動いた場合、重大事故を招く可能性もありそうだ。初代ハロの組み立てや物理的な改修による不具合であればアムロや父のテム・レイの 責任かもしれないが、情報処理やAIの基礎設計による不具合が原因の場合、メーカーの責任という考え方もできよう。

 「機動戦士ガンダムユニコーン」の舞台である宇宙世紀0096では、主人公のバナージ・リンクスがミネバ・ザビに「こいつはハロ、知らない? 大戦中のエースパイロットが作ったマスコットロボットのレプリカ。子どもの頃、はやったろう?」(「機動戦士ガンダムUC RE:0096」第2話 最初の血)とハロを説明しているので、少なくともヒット商品になったハロには、訴訟沙汰になるような行動を取らないようプログラミングがなされていたのだろう。法律上の問題を想定して、機能を盛り込むというのは、今日の自動運転にも通じる話である。

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