「機動戦士ガンダムUC(ユニコーン)」には、「赤い彗星・シャアの再来」と呼ばれる人物が登場する。ネオ・ジオン残党を率いるフル・フロンタルである。
人を食った名前と言えよう。フル・フロンタル(Full Frontal)は「全裸」や「隠し事のない」「真っ向から」などの意味があるが、当人は仮面を被り、作戦もからめ手が多い。もっとも、出自から考えて本名やID(個人識別符号)があるかも定かではなく、対立する地球連邦軍への当てつけやイメージを混乱させる目的で、あえて奇妙な名前を名乗ったのかもしれない。
この男、他のガンダム作品の敵役とは一風変わった戦略をとっていた。戦争終結の手段として「ブロック経済」を実現しようと考えていたのだ。
ブロック経済とは、歴史的には宗主国と支配地域、あるいは同一通貨圏で貿易上の障壁を形成し、圏内(ブロック内)の経済を保護することを意味する。フル・フロンタルは「宗主国」とも言える地球を除外し、月、それにジオン共和国政府を含むスペースコロニー群・サイドだけで経済を回す「サイド共栄圏」を樹立しようと考えていた。
ガンダムUCのストーリーでは、フル・フロンタルは「ラプラスの箱」を求め、主人公バナージ・リンクスと対立する。ラプラスの箱は、開かれれば地球連邦が滅びるといういわく付きの代物だ。
地球を無視したブロック経済であるサイド共栄圏を確立するためには、地球連邦軍を抑えなければならないし、新しい国際秩序を地球連邦政府に認めさせる必要がある。そこでラプラスの箱を盾に、地球連邦政府と交渉しようというのだ。地球連邦政府がサイド共栄圏を認めれば、文民統制の地球連邦軍は身動きが取れなくなる。
サイド共栄圏構想は、一年戦争に始まる宇宙世紀の戦争の歴史の中で、一番地味な作戦と言って良いだろう。スペースコロニーを落として、一気に地球連邦軍本部があるジャブローの壊滅を図るのでもなければ、資源衛星アクシズを落下させて地球寒冷化をもくろむ訳でもない。
だが、意外に平和的で実現可能性が高い手段であるとも考えられる。地球連邦政府が一枚岩ならともかく、責任を取りたくない責任者の集まりでは互いに足を引っ張り合うものだ。「ラプラスの箱が開かれたときの責任を取れるのか」といった問いで政治家や官僚が互いにけん制しあい、あげくフル・フロンタルの脅しに屈してサイド共栄圏を承認することはあり得るだろう。
では、仮にフル・フロンタルがラプラスの箱を奪取できた場合、サイド共栄圏は現実的に成立・維持できるだろうか。環境経済学や国際政治の観点から、必要条件やその妥当性について考えてみたい。
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