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» 2019年04月25日 07時00分 公開

元日銀マン・鈴木卓実の「ガンダム経済学」:フル・フロンタルが夢見た「サイド共栄圏」の実現可能性 (5/5)

[鈴木卓実,ITmedia]
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宇宙世紀でも「冷戦」の悲劇を予感

 そして、月面都市に生産拠点を置くアナハイム・エレクトロニクスはそれらの軍備を各コロニー・サイドに提供することで、莫大な利益を得ることができる。水販売での暴利は反感を招きかねないが、原価の分かりづらい兵器や軍需物資は巨利を得やすい。水資源だけでなく軍事産業をも擁する月が、利に魅せられて、サイド共栄圏に参加することは想像に難くない。

 地球連邦軍のくびきを離れた各コロニー・サイドが自衛のため軍備を増強し、緊張関係の上に築かれるサイド共栄圏内の平和。これは第二次世界大戦で原子爆弾を開発したマンハッタン計画に参加し、ゲーム理論を考案したフォン・ノイマンを源流とする、相互確証破壊(一方の国が核攻撃を先制すれば、最終的に両国が必ず核により完全に破壊し合うことを互いに確証すること)を軸に据えた、大量破壊兵器を抑止力にする平和に似ている。

photo ゲーム理論を考案したフォン・ノイマン(Wikipediaから引用)

 こうした冷戦期に論じられた平和論は現在では異論も少なくない。2005年にノーベル経済学賞を受賞したトーマス・シェリングの『紛争の戦略――ゲーム理論のエッセンス』は、ゲーム理論を用いて国際政治上の対立や交渉、合意形成を分析している。挙げられている具体例は、核兵器や奇襲攻撃による相互不信など、悲劇を予感させる。

 孤立させられて経済的にも窮地に陥るであろう地球もまた、サイド共栄圏に報復する日が来ることを夢見るだろう。フル・フロンタルのサイド共栄圏構想にミネバ・ザビは反論する。「それは西暦の時代の再現だ、貧困の中で育つ事になる新しい時代がやがてスペースノイドへの仕返しをもくろむ事だってあるかもしれない」と。

 フル・フロンタルがスペースノイドの自治独立への現実的な手段として提唱したサイド共栄圏構想。その実現は、宇宙を舞台にした冷戦の再現という、かりそめの非戦の時代の到来と、次世代に起きる戦争の序章に過ぎないのかもしれない。サイド共栄圏を目指した男の、仮面の下の本心を知る者は誰もいない。

著者プロフィール

鈴木卓実(すずき・たくみ)

たくみ総合研究所・代表。エコノミスト、睡眠健康指導士。ガンダムと同じ年齢(1979年生まれ)。新潟生まれ仙台育ち。仙台育英学園高等学校出身。地元での仮面浪人を経て、慶應義塾大学総合政策学部を卒業。2003年、日本銀行に入行後は、産業調査や金融機関モニタリング、統計作成等に従事。2018年より現職。経済家庭教師や各種セミナー(個人向け、企業向け)、経済・金融や健康リテラシー向上のための執筆、アドバイザーなどを通じて情報発信を行う。楽天証券トウシルにて「数字でわかる。経済ことはじめ」、東洋経済オンラインにて「あの統計の裏側」を連載。ビデオニュース・ドットコム「マル激トーク・オン・ディマンド」(第929回)へ出演。


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