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» 2019年04月25日 07時00分 公開

元日銀マン・鈴木卓実の「ガンダム経済学」:フル・フロンタルが夢見た「サイド共栄圏」の実現可能性 (2/5)

[鈴木卓実,ITmedia]

サイド共栄圏成立の鍵は「水資源」

 まず重要なのが資源問題だ。地球からの輸入がなくても、月面都市やスペースコロニーに住むスペースノイド(宇宙移民者)の生活が維持できなくてはならない。エネルギーは、太陽光発電や木星から輸送したヘリウム3の利用で賄える。レアメタルなどの鉱物資源も月や資源衛星から採掘できる。

 問題は「水」だ。恐らく月地下に埋蔵されている水資源が鍵になるだろう。西暦の今日でも、既に月の水資源を利用できる可能性が報じられている。月面の観測を通じて、広く月面で水を生成できる可能性や、極地に大量の氷が存在することが示唆されている。欧州宇宙機関、オーストラリアの宇宙機関では月面の水を採掘するプロジェクトが進行中である。

 ガンダム経済学第2回(ガンダムの月面企業、アナハイム・エレクトロニクスの境地 )では月面都市フォン・ブラウンや月に拠点を構える巨大企業アナハイム・エレクトロニクスを取り上げた。月は立地も資源もコロニーへの輸送に有利である。地球から重力を振り切って水を輸送するのはコストが高くつく。低コストで水を手に入れることができ、コロニーに供給できたことが月の力の源泉になった可能性がある。

 古来より、水の支配は権力につながる。戦国時代の領主は治水の力量を試された。治水は洪水対策だけではなく、渇水対策も求められる。今日の日本ではすっかりと鳴りを潜めたが、水を巡る争いは昭和まで続く。近畿農政局整備部の『水争いと「農」の秩序』から引用しよう。

 「水をめぐる争い ─── いわば集落全員の生死をかけた争いです。待っても待っても雨は降らず、太陽がジリジリと照りつけます。土にヒビが入って稲も枯れ始めます。どこかの集落が耐え切れず、夜中に上流の堰(せき)を壊しに行きました。村中が殺気立ちます。人々は手にカマやクワを持って集まり、戦国時代さながらに川を挟んでの乱闘が始まります。

 そう昔のことではありません。犬上川(滋賀県)では昭和7(1932)年、『農民400余名竹ヤリかざしてにらみあう』と新聞でも大きなニュースになりました。10数名の犠牲者を出し、300人あまりの警官隊が3日かけてようやく騒ぎが収まりました。道徳や理屈などで解決できる問題ではなかったのです」

 スペースコロニー内部でどんなに水資源を循環させる社会を達成しようとしても、ロケットの推進剤等で水を消費するし、偶発的に水が失われる可能性もある。コロニー内での事故による水質汚染もあれば、隕石などの衝突による外壁の破損で水が宇宙に流出することもあるだろう。その際、水の補充が確約されていなければ、コロニー住民の暴動が生じることになる。コロニーの市長やコロニー公社の役人にとっては悪夢としか言いようがない。

photo 武田信玄によって築かれたとされる「信玄堤」。治水は権力者の力量が試された(Wikipediaから引用)

 月がコロニー・サイド側に水資源を安定供給できるとすれば、それは地球に頼らないサイド共栄圏の実現に大きく寄与する。それはまた、月が共栄圏で強い権力を持つことも意味する。

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