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対立しがちな「経営」と「ものづくり」、マザーハウス代表の山口氏はどう解決してきたのか(1/3 ページ)

» 2019年09月30日 08時00分 公開
[山口絵理子ITmedia]

この記事は、マザーハウス代表兼チーフデザイナー、山口絵理子氏の著書「Third Way(サードウェイ)第3の道のつくり方」より転載、編集しています。


「途上国から世界に通用するブランドをつくる」――。そんなミッションから生まれたマザーハウスは、バングラデシュ、ネパール、インド、インドネシア、スリランカの工場から、ハイセンスで高品質なバッグやジュエリー、アパレルを世界に届けている。

 若くして起業し、さまざまな困難を乗り越えながらマザーハウスを成長させてきた同社代表の山口絵理子氏には、一つのビジネス上の信念がある。それが、さまざまな対立を乗り越え、よりよい解決策を導き出すためのフレームワーク、「サードウェイ」だ。

 「途上国と先進国」「手仕事と大量生産」「デザインと経営」「グローバルとローカル」「個人と組織」――。これまでさまざまな二項対立に日々、直面してきた同氏が編み出した解決法、「サードウェイ」とはどのような考え方なのか、それを実践するためにはどうすればいいのか――。

 山口絵理子氏の著書「Third Way(サードウェイ)第3の道のつくり方」の中から今回は、仕事をする上で対立が起きやすい「ロジカルとクリエイティブ」「経営とものづくり」について、サードウェイのフレームワークで解決する方法を紹介する。

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何のためにつくるのか?

 私の肩書きは二つある。

 「代表取締役社長」と「チーフデザイナー」。経営とデザイン。ロジカルとクリエイティブ。対極にあってケンカしやすい二つの立場が、私の中で同居している。

 最初からそうなろうと、ねらっていたわけではない。

 社長になったのは、勢いでつくったバングラデシュ製のバッグを売るために会社の登記が必要になったからだったし、デザイナーの役割を担うようになったのは、「いいものをつくらなければならない。自分しかいない」という現実的な必要性から生まれた。

 もともと手を動かすのが好きで、口よりも手で自己表現するタイプだったけれど、デザインが本業になるとはまったく思っていなかった。

 バングラデシュの工場にバッグ製作を依頼するようになった当初は、日本で知り合った外部デザイナーにデザイン画を描いてもらい、バングラデシュの工場に持ち込んで渡していた。

 「かっこいいデザイン! 完成が楽しみだなぁ」。つくってもらったデザイン画をもとに、ワクワクしながらとりかかる。ところが、現場でつくり始めると、なかなか絵の通りにはいかないことが多かった。

 そもそも日本とバングラデシュでは、革を切る道具も、型紙として使用する紙の硬さも、持ち手の中に入れる紐の材質も、全部異なっていた。そしてバッグの概念も、現地では「荷物を入れるもの」という価値観。日本のように「ファッションアイテム」という要素が加わると、価値観の違いが立ちはだかった。

 「なんで裏地が必要なのか?」

 「なぜポケットが必要なのか?」

 現地では、そんな質問を受ける。実用性とファッション性のギャップ。現地の職人は絵を見ながらなんとかバッグをつくるが、何度やっても、自分のイメージと違うものができあがる。

 「デザイン画を描き直してもらいたい」と思うけれど、そのためだけに日本に帰国してまたバングラデシュに戻ってくるのは、どう考えても非現実的。国際電話をかけようにも、電波状況もよろしくない。

 こういうのって、現場ですぐに判断できないと、らちが明かないよね? それができるのって、私しかいないよね……?

 必要に迫られて、私は「デザイナー」にならざるを得なかったのだ。

 と言っても、クールなオフィスでサラサラと絵を描くような姿はほぼゼロ。ひたすら、工場に張り付いて、バッグの模型になる「型紙」からつくり始めた。専門学校を出たわけでもない私は、とりあえず、工場のみんながつくったものをバラバラに解体することから始めた。そして、バッグの模型となる「型紙」づくりから着手した。

 型紙は厚紙でつくるが、それができたら革を裁断する、縫製する、組み立てる。気がつくと、型紙からバッグづくりまでできるようになり、これまで作成してきた数は4000種類を超えた。

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