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対立しがちな「経営」と「ものづくり」、マザーハウス代表の山口氏はどう解決してきたのか(2/3 ページ)

» 2019年09月30日 08時00分 公開
[山口絵理子ITmedia]

二つの視点から見えるもの

 必要に迫られてデザイン、というべきか、ものづくりを始めた私。でも、その奥深さや過酷さ、尊さはまったくわかっていなかった。春夏、秋冬と大きくは年に2回、バッグの新作を出す。コンセプトづくりから販売に至るまで、1年以上かかる場合が多い。

 経営をしながら商品をデザインする。これは、右脳と左脳の両方が真反対の方向に働く作業だ。最初の数年は頭が混乱して、自分の中に二つの人格が現れて、常にケンカしていた。

 「こんなものをつくりたいな!」とデザイナーの私が言うと、「原価率は? 生産効率は? 今は素材に投資すべきじゃないよ」と経営者の私が質問を投げかける。表現をしたい自分と、それを押さえつける自分は、共存できないと思っていた。

 苦しくて仕方がなかった。ファッション業界のデザイナーの先輩からは「クリエーションに集中しないなんて、デザイナーとして一流にはなれないだろう」と言われたこともあった。副社長の山崎に思い切って告白した。

 「社長を交代してほしい。私はデザインに集中したい。ものがすべてなんだ。だからデザインでこの会社を牽引できるように私から代表という肩書きを外してほしい」

 彼は「二つやることで見えてくるものがあるはずだよ。それにこの会社は山口の思いで生まれたんじゃないか」と言った。

Photo マザーハウスが手掛けるジュエリー

 私は葛藤をもち続けながら、それでもバッグ、ジュエリー、アパレルとすべてのデザインの99%をやり続けてきた。

 その先に見えたこと。それは――。

 経営とデザインは、二項対立ではない。

 両者をかけ算して初めて、

 ブランドがらせん階段のように一歩一歩成長できる。

 そして、二つの視点からプロダクトや組織を見ることで、

 ベストな判断ができる。

 経営にデザイン的思考は必ず必要で、デザインに経営的思考は欠かせない。

 サードウェイ的視点がなければ、どちらか一方に偏っていたが、今は、両方やってきて本当によかったと思っている。

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