この記事は、マザーハウス代表兼チーフデザイナー、山口絵理子氏の著書「Third Way(サードウェイ)第3の道のつくり方」より転載、編集しています。
「途上国から世界に通用するブランドをつくる」――。そんなミッションから生まれたマザーハウスは、バングラデシュ、ネパール、インド、インドネシア、スリランカの工場から、ハイセンスで高品質なバッグやジュエリー、アパレルを世界に届けている。
若くして起業し、さまざまな困難を乗り越えながらマザーハウスを成長させてきた同社代表の山口絵理子氏には、一つのビジネス上の信念がある。それが、さまざまな対立を乗り越え、よりよい解決策を導き出すためのフレームワーク、「サードウェイ」だ。
「途上国と先進国」「手仕事と大量生産」「デザインと経営」「グローバルとローカル」「個人と組織」――。これまでさまざまな二項対立に日々、直面してきた同氏が編み出した解決法、「サードウェイ」とはどのような考え方なのか、それを実践するためにはどうすればいいのか――。
山口絵理子氏の著書「Third Way(サードウェイ)第3の道のつくり方」の中から今回は、サードウェイという考え方が生まれた背景を紹介する。
男、女。右、左。西、東。先進国、途上国。都市、農村。論理、創造。組織、個人。家庭、仕事。そして理想と、現実。
世の中には、ほとんどすべてのものごとに、二つの軸が存在する。言葉を換えると、すべてのものごとには裏も表もある。ときに、これらは反発する。“両極”として対立のポジションをとり、ものごとが前に進むことを阻む。対立の解決のために、多くの人が悩む。
結果、導き出されてしまう答えは、「足して2で割る」といった妥協点だったり、あるいは「どちらかだけを取る」「どちらも捨てる」といったあきらめだったりする。
でも。
本当にそれだけが答えだろうか? なぜ世の中はこうも、二つに分断されているんだろう。一方のポジティブは、もう一方のネガティブを生み出さなければいけないのだろうか?
私は、そんなとき、「第3の道――サードウェイ(Third way)」を歩んでいく。
「サードウェイ」、この言葉は聞き慣れないかもしれない。いわゆるコーヒーの世界や、ワインでサード「ウェーブ」と言われているものとは違う。私がこの本でお伝えしたいサードウェイは流行に関するものではなく、その真逆、生きるうえで、仕事をするうえでの考え方であり、思想である。私はそれを「相反する二軸をかけ合わせて新しい道を創造する」と定義している。
もう少し詳しく説明をすると、たとえば、目の前にAとBという選択肢があるとする。それらは対立している、まったく異なる二つの選択肢だ。
その場合、私たちは、どちらか一方を取るか、または中間地点としての選択肢Cを見いだそうとしてきたと思う。選択肢Cは、多くの場合「バランスをとる」ことであり、ある意味では「妥協点」でもあり、ある意味では「最適解」と呼ばれることもある。
私が本書で提示するサードウェイは、そうではない。AとBのいいところを組み合わせて、新しいものをつくる。そして、ときにAに寄ったり、Bに寄ったりしながらも、らせん階段をのぼるように上昇させていく。
私は大学を卒業して、バングラデシュに単身で渡り、マザーハウスという会社を2006年に起業した。バングラデシュのほか5カ国の途上国でつくったバッグ、ジュエリー、アパレルなどを国内外38店舗で販売している。売り上げは13年間、一度も落としたことがない。日本にも海外にも、自慢の仲間たちがたくさんいる。
途上国と先進国を行き来し、9カ国で仕事をしてきて、スタッフ約600人と共に輪をつくろうと挑戦していく中で、少しずつ、少しずつ自分の中で形づくられ、自分自身を支えてきてくれた考えが、「サードウェイ」だ。
25歳で起業したときから掲げてきた言葉は「途上国から世界に通用するブランドをつくる」だ。「途上国」と「世界」。そして「途上国から」と「ブランドをつくる」。それぞれ相反する二つのものを組み合わせている。
もともと、対立軸にはさまれているブランドだ。
そのミッションを掲げながらものづくりを必死で続けてきた道のりの中で、「中間地点を探るだけでは不十分だ」と何度も、何度も、涙し、苦しんできた。直面する問題、反発、軋轢、格差、それらを乗り越えて一歩先に進むとき、私にとっての「最適解」は「中間地点」ではなかった。
常に心がけてきたことは、「かけ離れたものだからこそ、組み合わせてみよう。離れていた二つが出会ったことをむしろ喜び、形にしてみよう。これまで隔たりがあった溝を埋めて、新しい地をつくろう」。つまり、バランスを取るのではなく、新しい創造をする思考だ。
ときには衝撃であった。ときには、衝突であった。ときには、反発を生んだ。しかし、その痛みがあるからこそ、それで終わらせたくないと思った。
衝突や反発を、解決することだけにとらわれてはいけない。問題解決よりも、出会ったことによる新しい化学反応を生み出そう、そんな積極的な姿勢が、夢を追い続けさせてくれた。
「もしかしたら、これは生活でも役に立つかもしれないな」「もしかしたら相反する二つの間で悩み、葛藤している人たちにとって、プラスになるかもしれないな」――そういう思いが湧き上がり、この本を書いた。
1年ほど前、5カ国から職人を呼んで、松屋銀座さんの一階で実演販売をした。セリーヌ、フェンディ、ルイ・ヴィトンの並ぶフロアで、ベンガル人がミシンを扱っていて、実際にお客さまが安くない私たちのバッグを選んでくださる。
その光景は、私の挑戦を象徴するコンセプチュアルな一シーンだった。そこには「途上国」や「世界」といった対立軸では表せない、誰も見たことがないピカピカの価値が生まれていた。この瞬間が、たまらない。
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