クルーズ船が寄港しても地域振興に貢献しない、は本当かクルーズ市場最前線(2/4 ページ)

» 2019年08月20日 06時00分 公開
[長浜和也ITmedia]

クルーズ船が地元産業に与える意外な経済効果

 クルーズ船の楽しみの1つに、船内で供する食事がある。特にディナーでは毎日異なるメニューのコース料理を用意する。その味はもちろん、メニューの多彩さもクルーズ船を選ぶ際の重要な項目だ。それだけに、それぞれのクルーズ船では総料理長が中心となってメニューの立案に注力している。クルーズプランのプロモーションでも寄港地の有名な食材を取り入れたディナーを重要なセールスポイントの1つとして訴求する。

 例えば、日本クルーズ客船の「ぱしふぃっく びいなす」が2018年11月に実施した別府、宮島クルーズでは、広島県の企業が立ち上げた鶏肉ブランド「広島赤鶏」を取り入れたメニューを用意した。同じ11月に実施した熊野古道クルーズでは、和歌山県の企業が開発した冷凍保存技術で保存したブランド鮪「海桜鮪」や、地元名産の梅エキスを餌に混ぜて育てたブランド鯛「梅真鯛」、そして、熊野牛などを取り入れたメニューを提供している。それぞれ、乗船した船客分の食材を一括して大量に購入しており、これも寄港地地元産業に大きな収益をもたらしている。

「ぱしふぃっく びいなす」の熊野古道クルーズで供された地元ブランド「海桜鮪」「梅真鯛」のお造り

 木曽氏が「クルーズ船の重要な収益源で地元業者に売上を渡すわけがない」と述べていた寄港地観光においても、オプショナルツアー参加者の移動に使うバスやタクシーは地元の業者からチャーターする。また、日本発着クルーズにおけるオプショナルツアーの目的地も、清野氏がいう「ファッションブランドのアウトレット、宝石や化粧品のディスカウント店」が入るクルーズ客目当てのショッピングモールではなく、地元の有名な観光地が多い。ツアーで食事がある場合も、地元で有名なレストランや料亭、食堂を利用する。いずれにおいても「地元業者」の売り上げとなっていることに変わりはない。

 なお、清野氏がいう「著名ブランドを大量に取り扱うディスカウントショッピングモール」はクルーズ船の船客にとって訪れる価値はそれほどない。それは、クルーズ船の多くが船内に「著名ブランドを大量に取り扱うショッピングモール」を設けており、船客は「免税価格」で購入できるからだ。

 ただし、中村氏の主張で述べている、海外発着日本寄港クルーズ船を対象とした日本企業の「大規模免税店」が存在し、2017年以降に長崎、鹿児島、那覇、宮古島、石垣島、富山など、積極的にクルーズ船寄港を誘致している地域で店舗を拡大しているのは事実だ。

大型クルーズ船の多くはこのような有名ブランドの免税ショップを船内に設けている

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.