クルーズ船が寄港しても地域振興に貢献しない、は本当かクルーズ市場最前線(4/4 ページ)

» 2019年08月20日 06時00分 公開
[長浜和也ITmedia]
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クルーズ誘致を巡って奄美大島で何が起きているのか

 一方で、カー氏と清野氏の主張では、主に奄美大島で進んでいる大型クルーズ船寄港誘致をクルーズ船誘致の問題として取り上げている。この問題は、ここまで述べてきた観光小売業とは異なる視点で考える必要がある。

 この問題で客観的な参考情報となるのは、奄美大島でまさに寄港誘致を進めている瀬戸内町が公開した「クルーズ船寄港地に関する検討協議会」における推進側、反対側それぞれのプレゼンテーション資料と、計画に反対するWWFジャパンが発表したリリース資料だ。

 瀬戸内町が公開する推進側の資料とは、計画を立案したクルーズ船運航会社のロイヤルカリビアンクルーズが用意した。対する反対側の資料は、奄美の自然を守る会が用意している。

 ここで問題となっているのは、主に、オーバーツーリズムに対する地元の不安と、大型クルーズ船が寄港することによる環境負荷の不安だ(※なお、清野氏が述べている「大規模ショッピングモールを基軸としたゼロツーリズム」とカー氏が述べている「大規模公共設備工事に伴う諸問題」については、現時点で確たる根拠がない臆測に基づいたもので、この問題を考えるベースにすべきではない)。

 この2つの問題は、現在クルーズ業界で最も重要かつ深刻な問題と重なっている。そして、奄美大島は、いまクルーズ業界で最も人気が高まりつつある「探検クルーズ」の対象として、非常に優れた特質を持っており、今後、大型クルーズ船の寄港要望が増加する可能性が高い。

 それだけに、この問題に対する対処と解決方法を誤ると、日本におけるクルーズのイメージを大きく損なう危険性がある。反対に、地元や自然団体など、いま反対している人たちの理解を得られる策を提示することができれば、クルーズ市場が抱えている深刻な問題の解決につながることになる。

 次回は、奄美大島で起きているこの問題における解決策を模索する動きについて考察していく。

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