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25歳で「がん宣告」を受けた営業マンが「働くこと」を諦めなかった理由――企業は病にどう寄り添えるのか新連載「病と仕事」(1/5 ページ)

» 2019年08月27日 05時00分 公開
[今野大一ITmedia]

 「手術には全力を尽くしますが、状況によっては左足を切断する可能性があります」

 2014年7月8日。Webマーケティングなどを手掛ける渋谷のITベンチャーに勤めていた鳥井大吾さん(30)は、医師にこう告げられた。25歳だった。翌日には膨れ上がった左のふくらはぎの手術を控えている。病名は肉腫というめずらしい「がん」――。医師はこう続けた。

 「足を切断するかどうかは術中に判断します。手術では、腫瘍とその周りの脂肪、筋肉と腫瘍に絡んだ血管2本と腓骨(ひこつ)を摘出します。筋肉もくり抜くので、足に障害が起こることを覚悟してください」

 鳥井さんは説明を受け入れ、翌日の手術を迎えた。当日は恐怖感というよりも、妙な高揚感があった。自分でできることは限られている。結局は自分が信頼した医師に任せるしかないのだ。

 全身麻酔を打たれ手術台に横になると8時間に及ぶ大手術を終えていた。腫瘍は想定よりもかなり大きかった。周囲の筋肉も含め15センチほどを摘出した。そして――。鳥井さんの願い通り、何とか左足を温存することができた。説明を受けたような障害を起こすこともなかった。術後は、今までに経験したことのないような激痛を感じながらも、鳥井さんは深く安どした。

photo がんを乗り越え、現在は新しい仕事に励む鳥井大吾さん

若くしてがんになったら……

 「告知を受けたときは、まさか『自分ががん』だとは信じられませんでした。僕は症状が出始めて約2年間、何度か病院に行っていたのですが、結果的に『がん』だと気付けず、放置していましたから……。最初にふくらはぎに違和感を覚えたのは、まだ学生時代でした。就職活動をしていたときです」

 大学3年時の11年冬、会社説明会の帰りに左のふくらはぎが「張っている」と感じた。ただ、痛みがなかったために病院に行くことはなかった。数カ月たつと左のふくらはぎが右に比べて太くなってきた。

 12年の春に地元の整形外科で血液検査とレントゲン撮影をしたが、ふくらみの原因は分からなかった。紹介された大学病院でも再検査をしたが、それでも原因は判明しない。「別に痛いわけでもないし、まあいいか」。そのまま放置した。

 大学を卒業後、晴れて先述のITベンチャーに新卒1期生として就職。Webコンサルタントとして活躍した。仕事は多忙ながらも充実した社会人生活を送る。メインの仕事は営業で、週の半分以上は外勤だ。週に5、6社を訪問し、受託した案件についてサービスの提供も自分でやり、月末には自分で請求書を発行もする。こうした仕事生活の間も、特に左足の痛みはなく日常生活に支障はなかった。

 しかし徐々にではあるが、ふくらはぎは太くなっていた。そして社会人2年目の14年5月、父の勧めでもう一度病院で診てもらうことになる。初めて診察を受けてから2年がたっていた。

photo 手術当日の写真。左のふくらはぎがふくれている
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