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日本マイクロソフト社長の働き方――平野氏単独インタビュー(前編)重要なのは「人」(2/3 ページ)

» 2019年08月28日 09時20分 公開
[大河原克行ITmedia]

経営で重視したこと、失敗したこと

―― 17年度は、当初7%だったクラウドの売り上げ比率をいまでは50%以上に高め、18年度はSurfaceのビジネスを1.5倍に成長させました。19年度は国内クラウドベンダーナンバーワンを目指すといったように、野心的な目標を掲げ続けてきましたね。

平野 こうした困難な目標を達成し続けてきたことは社員にとっても、大きな自信につながっているといえます。国内クラウドベンダーナンバーワンは、もう少し社長ができれば達成できたのに残念です(笑)。

 日本マイクロソフトの社長を受けるときに、米本社の上司に、社長としての在任期間には期限があるのかということを質問しました。そのときに、3年という短期ではなく、最低でも5年はやって欲しいと言われました。

 それは私も同じで、短期間であれば、社長の仕事を受けるつもりはありませんでしたし、少なくとも5年間はじっくりとやりたいと思っていました。ただ、結果として、4年2カ月となり、話が違うと言ってはいるのですが(笑)。話の通りに5年あれば、この目標は達成できたでしょうね。いま、その目標達成に向けて勢いがついています。

平野氏は社長在任期間中に売上高を2倍に伸ばした

―― 経営のなかで最も重視してきたことは何ですか。

平野 経営で大切なのは、企業の存在価値などを示すパーパスと、戦略、オペレーション、人の4つです。そのなかで、特に重要なのは人です。私が社長として、成功したと思うことも人を中心としたものであり、後悔したと思うことも人です。私は、業績が良くても、悪くても、人のところがうまく行っていれば大丈夫だと思っています。業績が良くても、人の部分がうまくできていなくては、その先につまづくでしょうし、業績が悪くても、人がしっかりしていれば、必ず上向く。そこにしっかりとした戦略やオペレーション、プロセスがかみ合えば、絶対にできるという自信が生まれます。

―― ちなみに、失敗したことはありますか。

平野 失敗したことはたくさんありますよ。しかし、失敗したことが思い出せないんです(笑)。その分、成功したことも思い出せない(笑)。

 性格的なものだと思うのですが、失敗を失敗と感じない。きっと鈍感なのですね。ストレスもあまり感じないですし。ただ、失敗したときは、土日に家にいても、悔しくて、悔しくて、早く月曜日になって、それを解決したいという気持ちで一杯になります。

 その一方で、成功しても、達成感を感じるのが難しく、もっとできるんじゃないかと思ってしまう。それは、私の生い立ちや性格、宗教観などからくるものかもしれません。私は、物事を3歩ぐらい引いて見る癖があるんです。3日間失敗で悩んだり、3カ月間苦労したりといったときも、人生80年という歳月で見れば、何でもないと思ってしまう。4年で売上高を2倍にしたという成功体験も、やはり80年という人生から見れば、たいしたことはない話です。

 「総和」でどうかということで判断するのが私のやり方なのです。私は、せっかく、Microsoftにいるのだから、全てのことをそこから学びたいと思っています。学ぶだけ学べるチャンスがここにはあります。そして、社会にもっと大きな貢献できることができると、いつも思っています。この思いは、これからも変わらないでしょうね。

―― この約4年間で気を付けていたことは何ですか。

平野 社長1年目が終わったときには、社員とのコミュニケーションをどう取るかということを改めて考えました。日本マイクロソフトのシニアリーダーシップの間で共通認識を持っても、それが社員にきちんと伝わっているのかどうか、同じ方向性をもってもらい、思いが届いているのかということを、ずっと気にしていました。

 月次の社長Q&Aセッションを通じて、社員との対話を始めたのもそうした思いがきっかけでした。思い描いたところには近づいているとは思いますが、100点にはならないですね。伝えなくてはならないことが、社員にスケールする形で伝えるというのは、永遠の課題だと思っています。

自ら「働き方改革推進会社」を掲げ、率先して働き方改革に挑戦した

 先日も、あるマネジャーから子どもが産まれたという報告があったので「おめでとう」と言いながら、「育休は取るの」と聞いたら、「一日だけ取って、あとはがんばって仕事をします」という返事が返ってきたのには、正直、がっかりしました。日本マイクロソフトでは、これだけワークライフチョイスということを言っているのに、まだ仕事に時間を割いた方が評価されるという考え方が根底にあるのです。

 仕事と生活をバランスするワークライフバランスではなく、さらにその先の仕事と生活をチョイスするというところまで踏みだしているのが、いまの日本マイクロソフトです。マネジャーがそういう考え方をしていると、社員にまで、ワークライフチョイスという考え方はなかなか広がりません。

 私は、なるべく社員とは話をしているのですが、社長1年目には、「平野さん」と呼んでいた社員が、4年目になると「平野社長」に変わりますからね(笑)。それだけでも距離が生まれていることを感じます。カジュアルな話ができず、「その話をわざわざ社長に伝えるのか」という空気が生まれてしまう。自分が変わっていないと思っていても、周囲の見方が変わってしまう。ですから、コミュニケーションは、自分から積極的にやっていかなくてははならない。その点は心掛けていました。

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