「記憶」や「感情」を備えたAIが広がる? 「AIお姉さん」クーガーの次の一手(2/2 ページ)

» 2019年09月17日 11時24分 公開
[星暁雄ITmedia]
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記憶や感情を備えたAIの振る舞いをプログラミングする

 今回発表の「Connectome SDK」を使うことで、開発元であるクーガー以外の開発会社もバーチャルヒューマンを開発、カスタマイズできるようになる。「Connectome SDK」は対話のためのシナリオを新たに開発する環境を提供する。開発する方法は2通りあり、プログラマではない人々向けにGUI上でシナリオを作成できる環境と、プログラマ向けにJavaScript言語でコードを書くことでシナリオを作成する環境がある。

「記憶」や「感情」を備えたAIの対話シナリオを作成できるConnectome SDKの画面。GUI上でシナリオを作成できる

 AI(人工知能)という言葉が示す範囲は幅が広いが、クーガーが進めようとしているAIは「ゲームAI」と機械学習のハイブリッドだ。バーチャルヒューマンの個性や「人間らしさ」の演出では、どのように振る舞い、対話するかを指定するシナリオが非常に重要となる。そこでゲームAIを応用した「Connectome SDK」を提供して、容易にシナリオを作成できるようにした。

 クーガーCEOの石井敦氏は、「ゲーム分野では、シナリオのアイデアで『生きている感じ』を出すテクニックが古くからあった。最たる例は『シーマン』(1999年)だ」と話す。こうしたゲームAIは、いわば職人芸で作られていた。しかし最近では、活用できるコンピュータ資源や技法が豊富になってきたことで、ゲームAIも作り方が変わってきているという。

 バーチャルヒューマンは、通りかかった人物の表情や身振り(ジェスチャ)を認識できる。人間の表情や身振りに対して、どのようにバーチャルヒューマンがどのように対応するかも「Connectome SDK」でプログラミングできる。

 バーチャルヒューマンは「記憶」や「感情」に相当する機能を備えている。対話中のバーチャルヒューマンに同じ質問をしつこく繰り返していると、この記憶に基づき感情が変化して「何回聞くんですか?」とやや怒った声で聞き返してくる。こうしたシナリオ作成も「Connectome SDK」により行える仕組みだ。こうした道具立てが整っていることにより、人間から見てより自然な対応ができるようシナリオを作ることができる。

強みを組み合わせれば、小さなチームにも勝機がある

 AIの研究は世界中で進んでいる。クーガーによれば、人型のAIエージェント(バーチャル・ヒューマン)の取り組みはまだ公表されている事例はほとんどないが、今後は競合が出てくることも考えられる。これに対してクーガーの優位性は「ブロックチェーンとコンピュータビジョン(例えば画像認識)だ」と石井氏は説明する。「ここ10年で進歩した技術はコンピュータビジョンだ。この分野では自信がある」

 ブロックチェーンとAIの関連について少し説明しておこう。AI関連技術の中で、機械学習の分野では「学習データ」が非常に重要となる。学習データが偏っていると、AIも偏ってしまう。学習データが正当なものかどうか、その監査可能性が重要だとクーガーでは考えている。この課題解決のため、クーガーは「学習データをブロックチェーンで監査可能にする」というアイデアを実現した。ブロックチェーン技術は、改ざんが困難という特性を持っている。これを学習データの履歴の確かさを保証するのに用いる。

 アドバイザーの山川氏が取り組んできた全脳アーキテクチャ・イニシアティブでは、人間の脳に関する脳科学の知識と、機械学習のようなコンピュータ分野の取り組みをうまく組み合わせることを狙っている。コンピュータの能力や脳科学の発達の度合いから見て、人間の脳に匹敵する人工知能は射程に入っていると山川氏は考えている。

 山川氏はクーガーの取り組みにどのように関わっていくのか。「例えば対話技術として実現に近づいている分野、逆に実現が遠い分野をアドバイスすることを考えている」と山川氏は言う。AIと人との対話は奥が深い技術で、「常識を獲得した会話を達成することは、汎用人工知能と同じくらい遠い目標になる」。その一方で、実現可能な画像認識技術やゲームAIを組み合わせることで、人の身振りや表情に反応しながら「人間らしさ」を感じさせるバーチャルヒューマンを作り出していくことはできる。遠い目標と近い目標とを見分けることが大事ということだ。

 AIと脳科学分野では、Googleの関連会社の英DeepMindや、中国が膨大な研究資金を投入する脳科学プロジェクトChina Brain Projectのように、巨大な資金を持つプレイヤーが競っている。クーガーの挑戦は、世界中の巨大資本に対して日本のスタートアップ企業が挑戦する構図のようにも見える。だが、クーガーの石井氏は「強みを持つアイデアをうまく組み合わせることで、チャンスはある」と考えている。

 日本のスタートアップ企業の挑戦の行方はどのようになるだろうか。

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