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» 2019年09月19日 07時00分 公開

“香港消滅”へカウントダウンも デモの裏に潜む「東洋の真珠」の地位失墜観光客激減、大富豪が“脱出”(3/3 ページ)

[信太謙三,ITmedia]
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香港の観光客は約40%激減

 香港の混乱はこうした緊張状態が続く中で長期化しており、企業活動や市民生活に暗い影を落とし始めている。香港各紙が報じた陳茂波(ポール・チャン)財政司長のブログによると、デモなどによって中国本土や海外からの観光客が8月、前年同月比で40%近く減少し、一部地域のホテルの入居率が半分以上も下がったという。

 また、香港の富裕層が資金をシンガポールに移すといった動きも出ているという。経済成長率の予測が下方修正され、香港の国際金融センターとしての地位が大きく揺らいでいる。そして、矛を収めようとしないデモの指導者に対する批判的な声も、少しずつではあるが広まってきている。香港情勢が今後どう動くか、予断を許さない。

香港を代表する大富豪が“脱出”

 香港の将来を見極める上で、この地に根を張る大富豪たちの動きは注目に値する。彼らはこれまで中国側の求めに応じ、同国の経済的発展に大きく貢献してきた。

 その代表格が長江実業の創設者である李嘉誠氏だ。中国の改革開放を主導した実力者、トウ小平氏と太いパイプを持ち、北京、上海、広州などの大都市で不動産開発を手掛けて成功してきた。その一方で、自らの資金で広東省汕頭市に大学を設立したり、中国が国家の威信をかけて開催した2008年の北京オリンピックの際には、水泳競技の会場となった「国家水泳センター」、通称「ウォーターキューブ」に寄付したりして、中国と極めて良好な関係を維持してきた。

 しかし、中国国内の企業が急成長し、香港に頼ることなく潤沢な資金を手にするようになると、こうした関係に陰りが出始めた。李氏は10年ごろから中国や香港で所有していた不動産や企業を次々に売却。その資金を米国や英国、オーストラリアなどに回している。今回の香港の混乱を予測していたかのような動きで、李氏には香港の将来を見限っているようなところもあり、大富豪たちの“香港脱出”が加速するとみる向きもある。彼らの足は日系企業に比べて速い。

 これに対し、1000社以上あるとされる香港の日系企業も、混乱の長期化による影響を少なからず受けているはずだが、これまでのところ撤退などといった大きな動きをみせていない。香港には低い税率や簡素な税制、東南アジア諸国へのアクセスの良さなどといったメリットもある。

 が、香港発展の最大の要因は英国植民地時代から続くレッセフェール(自由放任)政策で、香港の自由な空気が外国企業を引き付けていたという面がある。中国の香港に対する統制強化はこの政策と矛盾するものであり、このまま進めば香港にも日系企業にも、いいことは何もない。

 香港では以前から海外移住を目指す市民が少なくなかったが、そうした市民が今回のデモで急増。海外移住セミナーが開かれると、すぐに席が埋まるという。移住先で人気があるのは、華人が多く言葉の壁が比較的低めで物価の安い、台湾やマレーシアだそうだ。

 とはいえ香港市民が全員、海外に出ようとしているわけではない。香港は当初小さな漁村で、英国の植民地になった後、中国本土から広東人が多数入ってきて住みついた。70年前に社会主義の中国が誕生すると、上海の財閥たちが香港に逃れて彼らの資金で急速に発展していった。このため、香港市民の初代はほとんどが“よそ者”で、英国が統治する植民地だったこともあり、政治にあまりかかわろうとしなかった。

 しかし現在の香港市民、特にデモに積極的に参加している若者たちはほとんどが香港生まれの香港育ちだ。英国の植民地時代から続く欧米流の教育を受け、香港人としての意識が高い。そんな彼らは香港の自由を守るため、身の危険を顧みず、デモに出ていく。

 だが、真の相手は14億近い人口を抱え、強大な武力を誇る中国だ。しかも香港は自分たちの生活に欠かせない水や食糧の多くをその中国に頼っている。首根っこをつかまれているようなもので、国際的な支援がない限り、香港の自由を守っていくのは容易なことではない。それでも香港の若者たちは怯まない。

 筆者の友人でもある香港の著名なジャーナリスト、李怡氏はこれについて「われわれが(デモに)出ていくのはわれわれが人間、尊厳ある人間であるからだ」と書いている。「東洋の真珠」香港が輝き続けることを願うばかりだ。

著者プロフィール

信太謙三(しだ・けんぞう)

1948年生まれ。静岡県出身。73年早稲田大学卒。同年時事通信社入社。香港特派員、北京特派員、北京支局長、上海支局長等を歴任。96年度ボーン・上田国際記者賞を受賞。2004年4月から10年間、東洋大教授を務めた。公益財団法人新聞通信調査会評議員。著作には『中国ビジネス 光と闇』(平凡社新書)、『巨竜のかたち』(時事通信社)、小説『天孫降臨』(花伝社)、原作を担当した『まんが 新日本縄文書紀』(漫画:竹姫、KKベストセラーズ)など。


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