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テレワークは「魔法の杖」ではない 失敗の根本原因、第一人者に聞く特集・日本を変えるテレワーク(3/3 ページ)

» 2019年10月15日 08時00分 公開
[服部良祐ITmedia]
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テレワークに経営者の「意図」を

――では、組織でテレワーク施策を失敗しないためにはどうすればいいのでしょうか?

比嘉: (大企業で)ちゃんとやっている例としては、日本マイクロソフトや味の素があります。また、中小企業やベンチャーの中には相当うまくやっているところがありますね。

 例えばFIXER(東京・港)というベンチャーは、地方の優秀な人材を雇用するためにサテライトオフィスを作っています。本社は浜松町にありますが、いつでも在宅勤務できるような仕組みにしています。台風の日に社長が出勤したら、秘書しかいなかったということもあったそうです。電車が動いておらず、(自然と)在宅勤務になったのですね。

 ソニックガーデン(東京・世田谷)も、最初持っていたオフィスを完全に廃止した点が素晴らしい。最初からオフィス無しというベンチャーは多いですが、(後から)手放してフルタイムのテレワークにする場合、精神的抵抗が大きかったはずです。

 いずれのケースも共通しているのは、経営者が(テレワーク化に)ちゃんとした意図を持っていることです。一方で、社長がちゃんと経営目標を持って(テレワークを)入れて成功しても、経営者が変わると元に戻ってしまう事例もよく見てきました。

テレワークとは「人間の問題」

――やはり経営層がカギを握っているのですね。では、具体的にどんな心構えや運用が必要なのでしょうか?

比嘉: まず、テレワークが「単なるツール」であることを理解すべきです。魔法の杖でも、オールマイティーな物でもありません。そしてどういう人たちが対象で、どんな頻度でやるかということが、(経営層の想定する)目的と合っていなくてはいけません。

 例えば育児・介護支援目的の在宅勤務制度は、実は4パターン作らなくてはいけないのです。まず「育児」と「介護」で分けられます。その中で、(それぞれ)「仕事が主、育児はサブ」にするのか、その逆か。介護でも同様で、計4パターンになるのです。ただ、これを実行している企業はまず無いでしょう。

 介護を理由に在宅勤務したい人と、育児目的の人では年齢層が違います。介護の方はほぼ管理職で、逆に育児目的の人は20〜30代ですよね。在宅勤務を利用するという意味合いが違ってくるのです。また、育児は“先”が見えているので復帰計画が立てやすい。しかし介護は半年で終わるのか、10年かかるのか分からないですよね。しかもその人たちは管理職だったりします。

 そういった事情を分かっていないで、勤務規定を一緒にするのはおかしいし、ワーカーからすると使いづらい仕組みになってしまうのです。

 あと、僕はそもそも「テレワークのための勤務規定を止めたら?」ということも言っています。テレワークを特別視すること自体が阻害要因になっていると思います。普通の(出勤する)勤務と同じように評価していけば、推進されると思います。

 実は1980年代半ばにも、大企業や政府がテレワークを普及させようとする動きがありました。当時浸透しなかったのは、ハードやソフト、ネットワークといった技術的な問題でした。ノートPCも重く、会社も(ADSLや光回線でなく)通常の回線を従量課金で使っていたのです。

 今はクラウドなど新技術も出てきて、当時不便だった問題は全部解決しています。唯一今も変わっていない、進んでいないのが「人間の問題」なのです。

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