もちろん、ここまで成功できたのは吉本氏自身の才能による部分も大きいが、それにしてもどうやってたった6年間で、これほどの大躍進ができたのだろう。改めて吉本氏にLEXUS DESIGN AWARDの価値を聞いた。
メンタリングは、吉本氏が通うロイヤル・カレッジ・オブ・アート出身のプロダクトデザイナー、サム・ヘクト氏だった。既にプロダクトデザイナーとして成功しているヘクト氏だが、非常にオープンに製品に対していろいろなアイデアを出してくれて、視野を広げてくれたという。
「一番、役に立ったのは、この作品をride(体験)にしたいのか、それともオブジェにしたいのか?」という質問。揺れるinahoの中を歩く心地よさを追求するのか?それともinahoの照明器具としての美しさを追求するのか、どちらかに絞った方が良い(そしておそらく体験にフォーカスした方が良い)というアドバイスだったと話す。
結局、吉本氏は、そうはいってもどちらも追求したいと思い、両方の視点から作品をブラシアップ。締め切り間際になって7種類のプロトタイプを用意し、「どちらかにフォーカスするのも良いけれど、両方のバランスが良い方がいいでしょう?」とヘクト氏を納得させて最終作品を応募した。
そうしてLEXUS DESIGN AWRDを受賞した後は、LEXUSが、この作品を世界各国のデザインイベントに凱旋展示をしてくれたという。その1つ、ドバイデザインウィークでの展示が、同デザインウィークの主催者の目にとまり、それがきっかけでブルジュ・ハリファの作品を依頼されることになったという。
吉本氏の受賞から6年がたち、LEXUS DESIGN AWARDも進化を続けている。現在、審査員はLEXUSインターナショナルプレジデントの澤良宏氏の他、世界的な美術館MoMAの有名キュレーター、パオラ・アントネッリ氏やテクノロジストのジョン・マエダ氏、世界的建築家のジーン・ギャング氏など豪華な布陣。メンターもデザインや建築界では名が知られた有名人ばかり、しかも、2019年度からは全メンターが全優ファイナリスト作品のメンタリングを行うことになった。
18年までは、毎年、その年のテーマが決まっていたが、19年からは年間テーマがなくなり「DESIGN FOR A BETTER TOMORROW」をテーマにLEXUSが重視する3つの基本原則「Anticipate(予見する)」「Innovate(革新をもたらす)」「Captivate(魅了する)」をいかに具現化しているかという点を審査基準として評価する方式に変わった。社会や個人のニーズを「予見」し、「革新的」なソリューションで、観衆や審査員の心を「魅了」するアイデアの提案を募集するのだという。
19年は、砂漠の砂を陶器などに応用しようとする作品や、各家庭のブラインドに太陽光パネルを仕込んで遮光と発電をするための仕組み、タンカーから流出した重油を応急回収する機械など、6つのファイナリスト作品の中から、乳がんにより乳房を切除した女性に、その体形にあった3Dレースの下着を作るための技術「Algorithmic Lace」が最優秀作品に選ばれた。
受賞作品はミラノデザインウィーク中の展示に加え、東京でも「Intersect by LEXUS」と「LEXUS meets ...」を巡回展示していた。
19年の受賞者やファイナリスト、あるいは20年の受賞者やファイナリストの中からも、そのうち吉本氏のようなスター級のデザイナーが登場してくるかもしれない。
こうした世界的デザイナーが、LEXUSというブランドに感じる親しみであったり、感謝の念であったりといったことを考えると、これは将来にとって大きな投資というだけではない。中世のパトロンたちが、その後、何百年を経ても人々の心を動かす文化をつくってきたように、今、LEXUSこそが後世に残したい素晴らしい文化をつくりだしている日本の中核であって、だからこそ、美しいもの、優れたものを作る人々、そうしたものに心ひかれる人々がどんどんとLEXUSに集まってきて、現在の成功につながっている、という側面もあるのではないだろうか。
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