グローバル化によってビジネス現場では常に変化が求められるようになり、日本企業にも変化に対応できるだけの人材の多様性が必要になっている。新卒一括採用によって同質的な人材を採り入れるだけでは、刻々と変わる状況に対応することはできない。人手不足が叫ばれる中、まさに「人材獲得競争」だけではなく、人材の「育成」競争にも拍車がかかっている。
そんな中、全日本空輸(ANA)は、社員がバレーボールチームの監督として高校生や大学生をまとめていく体験をすることによってリーダーとしての資質を高める社外の人材育成プログラム「文武両道場」に、自社やグループの幹部候補生を派遣している。文武両道場に参加させることによって職場の通常業務では得られない経験をさせ、人材を育成している取り組みについては、記事の前編「ANA社員が「女子高生バレーチーム」の監督に!? 謎の人材育成プログラム「文武両道場」に潜入」でレポートした。
ビジネスの在り方やモデルが複雑化し、従来の事業を継続しているだけでは生き残っていけない状況が日本の大企業の間にも広がっており、ANAの取り組みはいわば社内の人材育成だけでは情勢に対応できないことを物語っているようにも見える。
記事の後編では、ANAで人事の責任者を務める常務の國分裕之氏に、「文武両道場」に参加した狙いを深堀りすると共に、現在の働き方改革をどのように捉え、ANAの人事や採用にどんな課題があるのか、いかにして乗り越えようとしているのかをインタビューした。國分氏はこれまで人事部長やANA人財大学長などを務め、経営者の育成に長く携わってきた「経営者育成のスペシャリスト」だ。
経営幹部を育てるには、順を追って段階的に育てなければならないし、階層ごとの教育も欠かせない。これまで社内でMBA的なビジネススクールを開催したり、選抜研修を実施したりとさまざまな育成の取り組みを実施してきた。國分氏に経営者育成の要点を聞くと、ダイバーシティの重要性や「他流試合」の必要性が浮かび上がってくる。
――人材育成プログラム「文武両道場」にANAの社員を参加させるようになったのは、どのような経緯だったのでしょうか。
この研修には、去年初めて参加しました。今後の活躍に期待する人を集めて、選抜研修のような形で活用しています。2019年は、初任管理職、いわゆるマネジャークラスの人財が対象です。すでに1年ほどかけて管理職研修を実施してきたのですが、頭では分かっていても、すぐにアクションを起こすのはなかなか難しい。職場ではどうしても実業務が第一優先になりますし、私たちの目も届きません。
「文武両道場」は、これまでの研修で学んできたことや、職場で起こしてほしい行動を、日常から離れて集中的に実践する場として位置付けています。
――受講生がバレーボールチームの監督になるという点がユニークですね。
実は私自身、10歳から55歳までバレーをずっとやってきたんです。社会人チームの監督も務めましたし、小中高と全ての年代のコーチも経験しました。バレーは、誰か1人いい選手がいればできるスポーツではありません。役割分担があって、チームワークが大事です。
また、ミスのスポーツとも言われていて、監督として見ていると、失点の原因と改善の方法がよく分かるんです。タイムを取ったり、メンバーチェンジをしたりと、すぐに手を打てる。小さな組織をマネジメントする経験を積ませる場としてはちょうどいいスポーツだと思います。
そういった人財育成の場がないものかと思っていたところに、このプログラムの存在を知りました。これはドンピシャだ、と思いましたね。今年からは講師の1人に加えてもらい、ANAの社員以外も含めた受講生の動きを見て、私にできる範囲でマネジメントのアドバイスをさせていただいています。
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