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ANA常務に聞く人材育成競争の“死角”とは――「ダイバーシティを目的化しない」人気の強制「修羅場」道場に密着【後編】(3/4 ページ)

» 2019年10月30日 05時10分 公開
[日比野恭三ITmedia]
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新卒一括採用とキャリア採用との組み合わせが必要

――多様な働き方を受容することもまた、ダイバーシティの重要なポイントかと思います。

 その通りですね。気を付けなければいけないのは、ダイバーシティの尊重それ自体が目的ではないということ。目的はあくまで、一人ひとりが明るく元気に働いて、ワークもライフも充実し、ひいては会社全体がよくなることであって、ダイバーシティの尊重はそのための手段と言えます。私たちの仕事はサービス業ですから、一人ひとりの従業員の満足があってはじめて、顧客の満足を生み出すことができる。

 そのために何ができるか。ライフにはさまざまな局面があって、育児や介護、看護など、大変な時期もある。そこは会社が仕組みをつくって、支えていくべきだと考えています。

――ダイバーシティには採用の在り方も大きく関わってくると思います。新卒一括採用の同期には多様性がない、という声も耳にします。

 採用選考時にも多様性を念頭に置いていますが、確かに、ほぼ同じ年齢層で、同じ入社試験を通過してくるわけで、そういう意味では多様性は限られるかもしれません。今後は新卒だけでなく、キャリア採用とのバランスをどう取るのかが大切だと思います。言い換えれば、前者はメンバーシップ型、後者はジョブ型。両方とも重要ですし、その組み合わせになっていくでしょう。

 ただ、多様性がないという指摘はあれど、同期の存在は非常に大きいものです。何かに困っている時や大事な判断をする時に、頼れるのは同期ですから。採用の方法が多様化していった場合、同期をどう定義づければいいのかという点は悩みどころですよね。入社のタイミングで区切るのか、年齢で区切るのか。

 ANAでは、中途採用の社員には、最終学歴に合わせた同期を紹介するようにしています。同期会に入ったほうが社内に早く溶け込めるし、人脈も縦横にできていきますからね。

――働き方改革についての考え方もお聞かせいただければと思います。副業を認めることや、労働時間の抑制が議論されている中で、この問題にANAはどう向き合っているのでしょうか。

 もちろん、私たちとしても働き方改革を推進したいという立場です。2つのアプローチをしていて、1つは効率化。ITなども活用しながら、自動化・省力化を進めることで労働時間の削減を図っています。もう1つは意識の問題ですね。どうしても有休を消化しきれず、残ってしまうといったことが起こりがちなので、意識の部分から変えていく必要があると考えています。

 同時に大切なのは、それによって生まれた余暇時間の使い方。40代以上の社員になると、せっかく業務時間が減ったのに、早く家に帰ると「もう帰ってきたの?」と家族に言われるので、つい会社で時間を過ごしてしまう(笑)。仕事以外にしたいことを持つのは、働き方改革を考えるうえでは欠かせないのです。

 何かについて勉強したいだとか、あるいは別の仕事を持ってもいいのかもしれない。先に目的があって、そのために時間をつくる、という考え方がいいのかなと思います。いまはその仕組みづくりの段階です。

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