京都が観光客でパンクする!? 古都を襲う「オーバーツーリズム」の暴走京都在住の社会学者が斬る(2/4 ページ)

» 2019年10月31日 06時00分 公開
[中井治郎ITmedia]

世界の著名都市で「もう観光客はたくさん!」

 エベレストにイースター島。もはやこの地球上でカラフルなアウトドアウェアを着込みリュックサックを背負った観光客の姿をみかけない場所を探すことは難しいのかもしれない。19年2月に国連世界観光機関(UNWTO)が発表した世界における国際観光客数は推定で約14億人。10年に発表された長期予測では14億人を達成するのは20年と見込まれており、この予測が2年も早く突破されたことになる。

 かつて先進国の人々のあいだで海外旅行が大衆化しはじめた1960年代後半の年間国際観光客数は1600万人程度だった。つまり、海外旅行者の数は50年間で約90倍となったのである。一方、世界人口の増加は40億人程度から70億人ほどなので、この数十年いかに猛烈なスピードで多くの人々が海外旅行をするようになったかが分かるだろう。

 もちろん、これまで人類が経験したことのない観光客の大発生は多くの人々にとってチャンスであった。過疎化に悩む農村から、再開発が思うように進まないまま疲弊していた歴史ある古都、そして先進国から発展途上国まで、世界中のあらゆる特性をもった地域がこれをチャンスと見込み観光産業を起爆剤とする地域活性に取り組んできた。

 しかし近年、ベネチア、アムステルダム、バルセロナなど、観光地として世界的な知名度を誇る各都市において住民たちの怒りが爆発している。彼らは叫ぶ。「もう観光客はたくさんだ!」

 10年前に僕がイースター島で出会ったあの光景が、今や世界中に広がっているのだ。そして、そんな彼らの怒りはここ数年で急速に世界中に伝播(でんぱ)した1つの新語を誕生させた。地域の生活や環境、そして観光客自身の観光体験にさえダメージを与えるほどの過度な観光化を指す言葉、「オーバーツーリズム(overtourism)」である。

 08年、新たな省庁として観光庁が設立された。それからの10年間は日本にとって「クール・ジャパン」そして「観光立国」という旗印のもと官民あげての観光振興・インバウンド誘致にまい進し、また翻弄された10年間であった。もともとは外国へ旅行する出国日本人旅行者(アウトバウンド)に対して訪日外国人旅行者(インバウンド)の数が「少なすぎる」ということが問題となって取り組み始めた日本のインバウンド誘致政策であったが、その成果は目覚ましく、政府の予想を超える勢いで外国人観光客は増え続けている。

 とくに円安やビザ発給要件の緩和、LCC路線の就航などが功を奏し、12年当時は836万人だった訪日外国人は18年には3119万人にのぼるまでとなった。ほんの5、6年ほどの間に実に4倍に近い増加ぶりである。

photo 訪日外客数と出国日本人数の推移

 そして訪日外国人観光客による特需を象徴する現象「爆買い」が流行語大賞に選ばれた15年、実に45年ぶりに訪日外国人旅行者数が出国日本人旅行者数を上回った。つまり、ついに我が国は「観光する国」から「観光される国」に逆転したのである。

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