何より厄介なことは、京都を訪れる観光客の目当ては自然豊かな景勝地などではなく、人々の生活空間のなかに点在する寺社や史跡、さらには町並みなど人々の暮らしの場そのものであることだ。つまり京都は街全体が観光名所ともいえるのである。
『パンクする京都 オーバーツーリズムと戦う観光都市』(星海社新書)。著者の中井治郎氏は1977年、大阪府生まれ。京都在住の社会学者。龍谷大学大学院博士課程修了。今は同大学などで教鞭をとる。専攻は観光社会学。朝、寝ぼけながらゴミ袋を片手に玄関を開けると、目の前にまさに「京都の町並み」を撮ろうとしている観光客のカメラと目があったので慌てて戸を閉めた……京都ではしばしば聞く話である。多くの人にとって観光地とは非日常空間であるが、「観光される」京都の住人にとってはそれがまさに日常なのである。
世界各地の観光都市でオーバーツーリズムが問題となっていると述べたが、とくに反観光運動の激しい事例にはある共通点がある。それは歴史のある町並みや市場など、人々の生活の場そのものが観光の対象となってしまっている場所であるということである。地域住民と観光客の動線が重なれば重なるほど、バスや道路、さらには商店など、あらゆる生活インフラの奪い合いとなってしまうのだ。
また、そもそも観光とは関係なく生活している地域住民の暮らし自体が「見せ物」化していくということの問題や不満も無視できない。そして、さらに近年は、地域住民の暮らす住宅地や集合住宅のなかに深く入り込んでいくことでコミュニティーを破壊しかねない民泊の問題なども、各地で観光客と地域住民の関係をより厳しく対立的なものへと変えつつある。
世界的に観光が引き起こす問題に注目が集まる一方で、2020年東京オリンピック・パラリンピック開催をひかえた政府は「観光ビジョン実現プログラム2019」を策定、20年度の訪日外国人旅行者数の目標を4000万人とした。さらに30年には現在のほぼ倍である6000万人と見込んでいる。
いま京都が直面している問題は、オリンピック開催地である東京を含め今後さらに深刻な問題として全国のさまざまな街を襲うだろう。そのような意味では我が国におけるオーバーツーリズム最前線である京都の“戦況”は全国が注視すべきものといえる。
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