人はお金を払ったら、それなりに羨望の目で見て欲しい。しかし初代MIRAIは、車両デザインにそういう要素が皆無だったから、見せびらかしようがなかったのだ。
新型のMIRAIは、そこを基本からやり直した。まずはフロントフェンダーからリヤのランプまで一直線に水平のラインを引いた。そこにコンパクトなファストバック式のグラスエリアを上に載せる形を基本に置いたことで、伸びやかで高級でハイパフォーマンスなイメージを出した。基本的には、古典的なGTのデザイン手法を踏襲したものだ。
そしてパワートレーンシステムの丈が低いことを利用して、ノーズを極端に薄く造形している。さらにこの薄さを強調するために、フロントタイヤを極端に大径化して前に押し出した。これによってホイールアーチ直上の塗装面が減って、ノーズの薄さがより強調されている。
サイドウィンドー下端のラインは穏やかにキックアップさせて疾走感のある動的な印象を高め、そのラインの下に真っ直ぐ通るショルダーの膨らみがリヤタイヤに力感を持たせている。
MIRAIのデザインは、言葉を選ばずに言えば「俗」になったともいえるが、それゆえちゃんとお金のニオイが漂うようになった。この形ならば、500万円使って見せびらかすものとして合格である。もちろん水素の補給をはじめ、問題はまだいろいろある。だからヒットモデルにはならないと思うが、富裕層向け商品としてようやくスタートラインについたのは間違いない。
新型MIRAIの形から見えるのは、トヨタがレクサスのビジネスを通して、金持ちのくすぐり方を心得始めたという点だ。それは今後のトヨタのビジネスに相当に効いてくるだろう。
以上、東京モーターショーは現場に行って発見できることも多いと思う。この週末の3連休でフィナーレを迎えるので、ぜひとも足を運んでみてほしい。
1965年神奈川県生まれ。1988年企画室ネコ(現ネコ・パブリッシング)入社。取次営業、自動車雑誌(カー・マガジン、オートメンテナンス、オートカー・ジャパン)の編集、イベント事業などを担当。2006年に退社後スパイス コミニケーションズでビジネスニュースサイト「PRONWEB Watch」編集長に就任。2008年に退社。
以後、編集プロダクション、グラニテを設立し、クルマのメカニズムと開発思想や社会情勢の結びつきに着目して執筆活動を行う。
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