クルマはどう進化する? 新車から読み解く業界動向

東京モーターショーで見ておくべきものは?池田直渡「週刊モータージャーナル」(4/6 ページ)

» 2019年11月01日 07時00分 公開
[池田直渡ITmedia]

ダイハツ・タント(福祉車両)

 次に挙げておくべきはダイハツのDNGA車両であるタントだろう。これは東京ショー初お目見えということではないが、福祉車両なので、こういう機会でもないとなかなか実物を目にできない。

設計当初から福祉車両への転用を想定したダイハツ・タント

 DNGAはトヨタのTNGAと同じく、自動車を生産販売していく企業として総合力向上のためのプログラムだが、ハードウェア面から見ると、設計にあらかじめ「固定と変動」を織り込んで、従来バリエーション化に掛かっていたコストを大幅に削減するというメリットがある。ダイハツのDNGAでは、特にこれを福祉車両の開発に生かした(19年8月の記事参照)。

 従来クルマは、通常モデルが開発され、完成後それをどうやって福祉仕様にコンバートするかという手順で作れられてきた。しかし、ダイハツは福祉車両に必要とされるハードポイントを、あらかじめ通常モデルに織り込んで設計した。

 例えばAピラー付け根に大きなグリップを設ければ、足腰の弱い人の乗り降りに圧倒的に有利になる。加えて30度の回転が可能なシートと組み合わせると、回転後、Aピラー基部のこのグリップの位置が一番力が入れやすく、使いやすい。そんなことはとうに分かっていたことだが、現実的には後回しになってきた。そして衝突安全に重大な役割を果たすAピラー付け根に、後からグリップ用の穴を空けるのはクリティカルだ。だからあらかじめ設計時にねじ穴を考慮し、それが衝突安全に支障を来さないように設計した。

 同様のことは、リヤの車いすリフトにもうかがえる。従来このリフトは強度的な問題で床から天井まで専用の柱を立て、これを支柱としてアームを取り付けていた。当然リヤのラゲッジをふさぐ柱は邪魔だし、改造も大がかりになってコスト高を招く上に、リセール時に改造車として値落ちが大きくなる。ダイハツではこのアームを取り付けられるルーフ強度をあらかじめ与えて、柱を設置せずに天井マウントで車いすリフトを装着可能にした。

リヤの車いすを持ち上げるクレーンは、あらかじめルーフ強度を高くしておくことでピラーレスを実現している

 当然福祉車両へのコンバート価格は下がり、なおかつ多くのパーツは(車いすリフトを除く)、ディーラーで後付けも可能になった。電動ステップやアシストグリップ、回転シートが、必要になった時に後から付けられるのだ。

 高齢化が進みゆく先進諸国で、日本発のこうした福祉車両の低価格&高機能化は、全く新しいトレンドとして広まっていくのではないかと筆者は考えている。

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