クルマはどう進化する? 新車から読み解く業界動向

「超小型EV」でEVビジネスを変えるトヨタの奇策池田直渡「週刊モータージャーナル」(1/5 ページ)

» 2019年10月30日 07時00分 公開
[池田直渡ITmedia]

 10月24日から11月4日まで、東京ビッグサイトで開催されている東京モーターショーの見どころを、前回、前々回のマツダのEVに続き紹介していきたい。

 時代の変わり目がやってきた。トヨタの出品車両は割と地味だ。名前も実用一本やりの「超小型EV」。犬に「いぬ」と名前を付けるようなぶっきらぼうな話だが、これは多分東京の景色を変える。

超小型EVは、1回の充電で約100キロの走行が可能な2名乗車の電気自動車。最高速度も時速60キロだが、それで十分なニーズを見切ってのリリースである。発売は2020年冬

EVの使命

 2年前の東京ショーで、筆者は「JPN TAXI」を強くプッシュした。そして今東京の街中にはあの背の高いタクシーがあふれており、東京の景色が確実に変わりつつある。おそらく「超小型EV」でも同じようなことが起きるに違いない。

 次世代モビリティの中心を担うのはEVだといわれつつ、現実的にはその普及は遅々として進まない。日産リーフもテスラの各モデルも確実に少しずつ増えてはいるが、JPN TAXIがたった2年で都市の景色を変えたレベルと比べると、その差は比較にならない。

 トヨタのこの超小型EVは、JPN TAXIほどではないかもしれないが、次の東京モーターショーの時にはやはり都市景観を変えるほど、そこら中を走り回っているだろう。

 この超小型EVが真にすごいのは、自動車の歴史上初めてEVで利益を上げる商品になりそうだからだ。だから業界の人に「トヨタはついにEVでもうける方法を見つけましたよ」というと「本当ですか!」ととても驚く。「EVはもうからない」ということがそれだけ常識になっているからだ。

 ちなみに、もうかっていそうなテスラだが、昨年あたりからようやく単月収支が連続黒字化したところで、いま猛烈に積み上がった過去の累積赤字を埋める作業に入っている。もしこのまま好調が続くようであれば、ペース的には割と早期に黒字化する可能性はある。ただし一方でパナソニックの決算では「(テスラ専属供給の)円筒形電池の収益改善が課題」とされている現実もあり、新型電池「2170」の利益分配もどこかで何とかしないと事業が継続できなくなる。

 さて、まずは簡単にEVマーケットの状況説明から始めるべきだろう。EVがなぜ必要か? それは温室効果ガスの削減のためだ。これだけはきちんと頭に入れてもらわないと全部の話が分からなくなる。EVの良いとこ悪いとこはいろいろあるが、何よりも化石燃料廃止へ向けた重要な取り組みであることは別次元に重要だ。そこがどうでもいいのなら内燃機関で問題ない。というか、現状それ以外の部分では内燃機関の方がアドバンテージが大きい。

 給油の速さや航続距離、パワートレーン全体の個性の持たせ方。そういうところはエンジンが有利だ。一方でEVは音と振動が少なく、洗練されているし、低速からの加速力はエンジンが太刀打ちできないほど圧倒的だ。

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