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それでも日本企業が「内部留保」をため込む理由――「保身」に走る経営者たち磯山友幸の「滅びる企業 生き残る企業」(2/3 ページ)

» 2019年11月18日 05時00分 公開
[磯山友幸ITmedia]

再投資せずに「保身」続ける経営者

 実は、財務省も企業が投資にカネを回さず、内部留保を増やしていることを問題視してきた。12年頃には省内の中堅官僚を集めた勉強会で、日本が成長しない原因は何かを議論し、グローバル化に乗り遅れたことと並んで、企業が再投資せずに内部留保を増やしていることに原因があるという結論を導き出していた。

 ところが、安倍内閣は企業の国際競争力を維持するためとして、法人税率の引き下げを行ったため、企業の税引き後利益が大きく増える結果になった。問題とされた内部留保はそれ以降も増加ピッチを早めたのだ。

 増え続ける内部留保には課税すべきだ、という内部留保課税論議もある。特に15年ごろには、海外ファンドが積極的に官邸周辺の議員に対して、内部留保課税の導入を勧めていた。中長期的には、企業に溜(た)まっている資金が投資として外部に出ることで、日本の成長に弾みがつく、という説明だったが、投資ファンドの中には、短期的な株価上昇に結び付くとみているところもあったに違いない。

 財務省の中でも議論されたが、「課税は難しい」というのが大方の結論だった。これは今も変わらない。内部留保は企業が税引き後の利益を蓄えたもので、そこに課税すれば「二重課税」になる。当然、経済界は大反対だ。自民党内には山本幸三・衆議院議員のように、「課税すべきだ」と明言する議員もいるが、あくまで少数派である。

 かといって、甘利氏が持ち出した投資減税にも財務省は反対だ。これまでも数多くの投資に対する税制優遇を行っているが、効果を上げていない。前述の通り、財源をどこかから持ってこなければいけないが、それも難しい。

 法人税率を国際水準にまで引き下げる時の安倍内閣の論理は、一方でコーポレートガバナンスを強化し、企業にROE(資本利益率)を高めさせて稼ぎを大きくした上で、賃金や配当を増やさせるというものだった。パイを大きくし、その分配を増やすことで、ステークホルダーが豊かになることを想定していた。

 安倍首相が一方で、「経済の好循環」を繰り返し掲げ、財界首脳に賃上げを要請し続けてきたのは、そうした大きな流れの一環とみることもできる。

 企業が内部留保を貯(た)め続ける行動を取るのはなぜだろうか。

 大きいのは経営者の「保身」である。投資をして失敗すれば責任問題になるが、何もしないで業績が伸びないのなら、経済環境のせいにできる。特にバブル崩壊後の20年間、伝統的な大企業では「縮小均衡」を目指す経営者が多かった。リスクを取って事業を拡大するよりも、合理化や経費削減で均衡を目指す。そうした人材が評価され、偉くなっていった。リスクを取ったやり手の営業マンなどは、失敗の責任を問われてどんどん外されていった。それがデフレ時代の日本の大企業の姿だったと言っても良いだろう。

phot 財務省も企業が投資にカネを回さず、内部留保を増やしていることを問題視してきた(写真はWikipediaより)

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