及川 医療業界にあるギャップを埋めていくには、IT以外のアプローチが必要になることもあります。例えば、リハビリ支援にデータを活用するソリューションを開発しようとなったら、実際にリハビリ施設で実験を繰り返して、いろんな勝ちパターンを見つけるところから始めなければなりません。
そうやって実際の課題に即したソリューションを作っていく上で、開発チームとしてどんな工夫をされていますか?
山崎 工夫というか徹底していることを挙げると、どんなサービスを開発するときも、必ず課題と解決策を先に考えるようにしています。その解決先を実現するための手段として、ITの力+プラットフォームの力をどう使っていくかを決めるパターンが多いです。
及川 技術力を強みにする企業だと、技術ありきで製品開発を進めてしまうことが多々あります。結果、誰も必要としてないプロダクトが生まれ、事業がうまくいかなくなるというのが典型的な失敗例です。こういうアプローチとは完全に逆のやり方をしているということですね?
山崎 はい。及川さんの話に付け加えると、開発チームは開発チームで「売れないものを作っていても楽しい」という問題が起こりがちだと思います。開発そのものが楽しいあまり、不要な部分を作り込んだり、事業をスケールさせるために必要な打ち手が後手に回ったり。
及川 それ、よくありますね。
山崎 そういう状態だと、間違った解決策を正しく実装することに時間をかけるようになってしまいます。一方で、正しい解決策を先に見つけられれば、それを正しく作るのはエンジニアにしかできないことなので、良い方向に力を発揮してもらえます。
及川 場合によって、問題を解決するにはテクノロジーを使うのではなく、オペレーションそのものを人の力で変えたほうがいいとなる場合もありますしね。課題から入る姿勢はとても重要だと思います。
山崎 そうですね。常に戦略、技術、オペレーションという3つの観点で考えなければなりません。特に医療業界は、解決策が古い方法論のままで、現場の方々がなんとか頑張って対応しているというケースが多い。これをITの力で1000倍、1万倍効率的なものにしていくのが私たちのやるべきことになります。つまり、課題ドリブンで出発し、ソフトウェア・ファーストで解決するということです。
及川 具体的にはどんなプロセスで進めているのですか?
山崎 例えば、新規事業の立ち上げ当初は、あえてエンジニアを本格的にアサインせずに議論しています。この段階でエンジニアを本格的にアサインをすると、早く作りたいという思いが裏目に出て、間違ったものを作ってしまう可能性があるからです。それに、議論の往復で解決策を探索するようなフェーズでしっかりと作り込みたいエンジニアを巻き込んでしまうと、作っては壊しの繰り返しで疲弊してしまうので。
だから最初はプロダクトマネジャーだけをアサインして、そもそも企画中のソリューションが正しいのかをひたすら検証します。ソリューションもできるだけ複数案考えて、比較しながら検討することも心掛けています。
及川 このフェーズで開発チームに相談することは?
山崎 もちろん議論に巻き込むことはよくありますし、新規事業に長けているプロトタイパー的な思考のエンジニアに入ってもらうこともあります。
西場 僕は今、AI・機械学習チームのリーダーとして、企画に携わっています。山崎が言うように、新規プロダクト開発では、まずは課題の検証から始めて、解決に向けてどんな技術を使うべきか調査します。
目下の作業も、課題の特定、解決策の提案ですが、次に多いのは機械学習関連の論文を読むことです。一緒に技術調査を進めているエンジニアと、「この論文は面白かったよね」みたいな話をよくしています。その論文がどんな課題のどんな解決策に生かせるか、がポイントです。
もともと、僕のチームは仕事しながらガヤガヤ議論することが多いんですね。メンバーそれぞれが違う視点を持っているので、インプットの量も多いです。コンピューターサイエンスのバックグラウンドを持っているような人はすごく技術的な観点でアイデアを出してくれますし、僕が営業に行って聞いてきた課題を話すと皆がどう解決するか自然と議論し合うような感じです。
及川 そういう議論を活発に行える開発チームは強いですよね。
西場 はい、こういうところにも、山崎が言っていた技術先行ではない課題から入る姿勢が表れていると思っています。「それはユーザーにとって何がうれしいの?」と考えながら開発しているというか。社内の別部署から「AIを活用したい」という相談が来たときも、「いや、それはAIじゃなくても課題解決できますよ」みたいな話もよくします。
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