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足かけ10年の組織変革 コニカミノルタが語る「DX推進」に必要なもの変革の最後の一手は(2/3 ページ)

» 2019年11月27日 08時00分 公開
[伊藤健吾ITmedia]
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反対を押し切って始めた「自前の選抜研修」

及川 そうやって人員を拡充してきた専用拠点と、既存事業との連携はどうやって進めていますか?

江口 一番大きいのは人の交流です。既存事業の社員の中で、社内FA制度を使って異動を希望している若手を私たちのチームに受け入れ、AIの研究開発やソフトウェア開発を一緒に進めています。一方、ここで経験したことを社内に還元してもらうのも大切なので、ここに来た社員を別の新規事業チームに輩出するような動きもしています。今まで来てくれた社員のほとんどが新規事業の開発に関わり、半分くらいは新規領域の事業部へ異動しています。

及川 ある意味、IoT/ICT事業が人材育成機関の役割も担っていると?

江口 育成と輩出ですね。ITという当社にとっては新しい事業領域できちんと人財育成をするなら、新しい領域に精通した人が育てるべきだと考えているので。この思いは、10年に私がシステム技術研究所アーキテクチャ開発室長としてデジタル複合機のシステムアーキテクチャ開発に携わるようになったころから持っていました。

 日本のメーカーは組み込みソフトをウォーターフォールで作るのはすごく得意だし、ピラミッド構造の組織で納期と品質を守るやり方も長けています。でも、ITを使って新しいものを作ろうとしたとき、できる人がほとんどいない。これはマズいだろうということで、10年前くらいから社内でIT人財、デジタル人財の育成システムが必要だと提言していました。

 それでいろいろと具体的な施策を検討して、10年から始めたのが、選抜研修という形でITシステム開発のイロハから教え、アーキテクトレベルまで育てる取り組みです。

及川 どんな内容の研修ですか?

江口 16人という少数精鋭で、1年半かけてカリキュラムをこなすというけっこうヘビーな内容です。毎月1回、木・金・土曜日の3日間を使って、ITシステム開発の概念を全部理解できる人材になるための研修を受けてもらっています。ソフトウェア開発の基礎からハードウェアとの連携について、最近はクラウドサービスの開発なども研修のテーマになっています。

 研修そのものは月1回ですが、次の研修日までにすごい量の宿題が出るので、受講生は大変だと思います。でもそれくらいやらないと、組み込みソフトのコードを1000行しか書けなかったような人がITを使ったソリューションメーカーになることはできないと考え、とことん学んでもらっています。

及川 講師陣はどんな顔ぶれですか?

江口 基本は社内でまかなっています。最初は私と複合機システム開発の部長だった方の2人が中心になり、社内の優秀な中堅メンバーに指導者役になってもらいながら運営してきました。その後は中途入社で入ってきたITエンジニアの方々にも講師をお願いしています。コンピュータサイエンスの大学教授をお招きして、Linuxカーネルのすごく深い部分から教えていただく講座は毎回行っています。

 それと、研修の全体設計と指導を行う運営委員を社内で選抜し、受講生16人に対して16人の運営委員がサポートしているのも特徴です。「そんなに貴重な工数をかけて研修をやるのか」という批判的な声もありましたが、前期の受講生に次の期の運営委員になってもらうなど、工夫しながらやりくりしています。

及川 毎月3日間だけの研修とはいえ、受講生は職場を離れるわけですよね。しかも1年半の間、勉強漬けになるような内容となると、最初は研修に人を派遣する部門から反対されたのでは?

江口 されましたね(笑)。そもそも「技術系の選抜研修」という形式自体が社内初だったので。ただ、2期目、3期目と続けるうちに徐々にご理解いただいて、今は全事業部から派遣していただけるようになっています。それと並行して、経営陣や人事部門の理解も得なければ継続できないと思い、オフィシャルな取り組みとして認めてもらうように動きました。

 その際、成果物がないと認めづらいだろうということで、研修の最後に受講生16人が考案したITシステムを役員の前で発表する場も設けました。社内の技術も使いながら「こういうITサービスができる」と示すことができれば、より事業変革に直結した研修になるからです。

及川 そのアウトプットもそうですし、運営を自前でやっていらっしゃるという点も、社内に知見がたまっていくという点でとても実用的ですね。

 事業を変革させなければならなくなったとき、自分たちはITの専門家じゃないからと思考停止してしまい、新規プロダクト開発のコアになる部分までコンサルティング会社やITベンダーなどの外部パートナーに委託する会社が多いというのが典型的な日本の失敗例だと思うんですね。その点、コニカミノルタさんのように人材育成から自力で行おうとするアプローチは、事業を変えるだけでなく組織変革にもつながりますし非常に良いやり方だと感じます。

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