今回取材に応じてくれた専門家は、法医学者の奥田貴久氏だ。これまで日本や米国でアルコールに絡んで死亡した遺体を数多く調査し、現在、日本医科大学に所属しながらアルコールが人体に及ぼす影響を研究している。奥田氏は米国メリーランド州検視局で法医病理学研究員を経て、ヨーロッパアルコール医学生物学会(ESBRA)や国際アルコール医学生物学会(ISBRA)を含む多くの国際会議にも参加している。
奥田氏によれば、「2012年の厚生労働省による調査では、お酒の飲みすぎによる社会的損失は4兆1483億円にも達すると言われています」という。もはや、多くの日本人が喫煙していた1995年に5兆6000億円と言われたタバコによる社会的損失額に近い。タバコは今では社会から締め出されつつあるが、アルコールも悪影響を考えれば、同じ道をたどるかもしれない。
酒を飲めば、気分がハイになったり、陽気な気分になったり、気が大きくなったりする。リラックスできると感じる人もいるだろう。ただ飲酒運転などのように、アルコールがもたらす社会的悪影響の認識が広がっている一方で、身体に及ぼすマイナス効果についてはあまり話題にならない。
実は、アルコールが人間に与えるダメージは私たちが想像している以上に深刻である。飲みすぎが人の死に直結する場合もあるし、飲酒が人生崩壊につながるパターンも少なくない。
アルコールは、肝硬変、脳卒中、がんなどの60以上の病気の原因になっている。世界保健機関(WHO)のデータでは、世界で毎年330万人がアルコールに関連する疾病で死亡している。また飲酒が原因で、病気やけがに見舞われる人は数百万人規模だという。また奥田氏によれば、浴槽での溺死、転倒による頭蓋骨内損傷、凍死などを招くこともあり、「早死にする人の13〜15%はアルコールに起因する」と指摘する。
また法医学では、全て外傷死の30%ほどにアルコールが絡んでいるという。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
Special
PR注目記事ランキング