――高橋名人といえば、イベントや大会が終わると毎回サイン会があった話も有名です。名人にサインをもらった子どもも少なくないそうですね。そのようなファンサービス精神はどこから生まれたのでしょうか。
あれは実は、子どもたちに怪我(けが)をさせないようにするためだったんですよ。怪我をさせないようにする、というよりも単に子どもたちが邪魔だったから、というほうが当時の考え方に近いかもしれません。イベントが終わると、子どもたちが散らばっちゃって、デパートの売り場などそこら中を走り回っています。
そんな中で、50〜60キロあるモニターなど重いものを片付ける必要があります。だから子どもが横にいて、万が一ものを落とすと怪我をさせてしまうわけです。それはさすがにまずいので、片付けをしている間にサイン会を開こう、というアイデアが生まれました。サイン会をすれば始まるまで子どもが並んでくれますから。重たいものを片付け終えるまで子どもを並ばせておいて、細かいものだけになったときにサイン会を始めればいい、というわけですね。
――「子どもファースト」の考え方ですね。「ゲームは1日1時間」という標語も高橋名人が現場で生み出したそうですね。
実はこの言葉は子ども向けというより、イベントに来ている父兄に向けて言った言葉なんです。特にお母さん向けですね。当時は家庭内の大蔵省、今で言う財務省はお母さんで、お母さんに財布を開けてもらわないと子どもたちがゲームソフトを買ってもらえませんから、味方になってもらう必要がありました。
お母さんの敵は何かって考えると、子どもがゲームばかりやっていて勉強をしないということなんですよ。もちろん、遊びはゲームだけではないわけですが、野球やサッカーみたいに外に行く遊びと違って、ここで悪く見られるのはテレビゲームだと思ったんです。
――やはり、テレビゲームは新しい遊びとして保護者から忌避される恐れが当時からあったわけですね。
ファミコンより前にインベーダーゲームというものが流行っていました。当時「インベーダーハウス」とも呼ばれたゲームセンターは「不良のたまり場」と見なされ、小中学生の入場を禁止する通達がPTAから出されていました。「ゲームセンター=悪」という見方が既にあったわけです。「テレビゲーム=悪」という図式が定着することはメーカーとしても避けなければいけません。そうなってしまうと業界的にも先が短くなってしまいますから。
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