既存金融機関の個人向け貸し出しのノウハウは、歴史とともに蓄積してきたものがありはするが、そこまで精緻なデータに基づいて判断されたものではない。ローンの審査を経験されたことがある方なら分かると思うが、基本的には本人確認書類、年収の分かる書類、勤務先、勤続年数などのデータぐらいしか聞かれないことを覚えておられるであろう。カードローンなどになれば、年収資料さえいらない場合もあるように(過去の他人のデータの蓄積からの類推されていることが多い)、金融機関は、実は大したデータを分析しているわけでもない。そこに、膨大な個人単位の生活履歴のデータと貸し倒れとの関係を分析することが可能な新たなプラットフォーマーなどが、新たな金融技術(フィンテック)でビジネスを進めていけば、既存の金融機関の手法は確実に過去のものとなるのである。
プラットフォーマーなどの新規参入者により、個人金融のマーケットがさらに侵食されていけば、地銀などの既存金融機関の貸し出し債権の質はこれまで以上に劣化することは避けられない。そうなれば、2000年代の金融危機のように、不良債権管理や回収といった業務が再び重要性を増してくることになるだろう。
しかし、近年、収益獲得競争の中で、「セールスマン化」している金融業界の人材には、債権管理のノウハウは既に乏しいように思われる。バブル崩壊後に債権管理に携わった世代は、50代となり大半がセカンドキャリア(いわゆる“片道切符”出向)へ転出してしまっている。こうしたノウハウの再構築は簡単ではないはずであり、なんともタイミングが良くないな、と思わざるを得ない。
最近、筆者がメガバンクに勤務していた時代の近い年代の知人たちも続々とセカンドキャリアに移行して、ほぼ現役銀行員ではなくなったようだ。彼らの中には債権管理の高いノウハウを持った人材も多いが、そのほとんどが現在はそうした能力を使うことなく新しい仕事についている。彼らの大半は、銀行のあっせんによる再就職というルートで、セカンドキャリアに移るので、個々の過去のノウハウはその時点で埋もれてしまう。幸か不幸か、債権管理というノウハウが再び必要になるのなら、彼らを何らかの形で呼び返して、そのノウハウを活用することができればいいのにと思う。一度、セカンドキャリアに出て、世間での自らの評価にも触れた人材なら、そんなに身の程知らずの処遇も要求しないと思うのだが、なにかいい方法はないだろうか。
中井彰人(なかい あきひと)
メガバンク調査部門の流通アナリストとして12年、現在は中小企業診断士として独立。地域流通「愛」を貫き、全国各地への出張の日々を経て、モータリゼーションと業態盛衰の関連性に注目した独自の流通理論に到達。
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