アトムにナウシカ……マンガ・アニメ原画が海外で1枚3500万円の落札も――文化資料の流出どう防ぐジャーナリスト数土直志 激動のアニメビジネスを斬る(2/6 ページ)

» 2019年12月05日 08時00分 公開
[数土直志ITmedia]

日本マンガ・アニメ原画が「有望市場」に

 これまでも日本のマンガ・アニメの原画・資料は、何度か海外のオークションに出ている。12年のサザビーズ・パリのバンドデシネオークションにはすでに手塚治虫の名前が確認できるし、14年のクリスティーズでも同様だ。米国の映画・エンタメ専門オークションのプロファイル・イン・ヒストリーでは、10年代の初めから『鉄腕アトム』や『AKIRA』のセル画の出品が確認できる。

 中でも取引が多いのは、フランスだ。もともとフランスはバンドデシネを「9番目の芸術」と位置付ける国だから、日本マンガも文化として高く評価する。さらにフランスの日本マンガの出版部数は、米国に匹敵するほどだ。

 これに拍車を掛けたのが、日本のマンガ・アニメの文化的評価の高まりである。ルーブル美術館特別展での荒木飛呂彦氏の作品展示など小規模な展示企画が続いたあと、18年冬にパリのラ・ヴィレットにて日本のポップカルチャーを総合的に取り上げた「MANGA⇔TOKYO」が開催され、注目を浴びた。

 19年にはお隣の英国・大英博物館で海外では過去最大規模の日本マンガの大回顧展「The Citi exhibition Manga マンガ」も実施され、来場者数が17万5000人を超える大盛況となった。もともと人気が高いところに、原画やセル画の存在が知られることで、収集対象とも見なされるようになった。展覧会は日本のマンガ・アニメ文化を広く認知させる効果もあったが、同時に海外のコレクション意欲にも火をつけたわけだ。

photo 英国・大英博物館で開催された日本マンガの大回顧展「The Citi exhibition Manga マンガ」
photo 英国・大英博物館で開催された日本マンガの大回顧展「The Citi exhibition Manga マンガ」

 これにオークション会社が加わる。一般的には骨董品や印象派の絵画などを思い浮かべがちなオークションハウスは、実は21世紀に大きく変わっている。現代アートから写真、時計などコレクタブル(集めやすい)アイテムなどの新分野に積極的に進出している。その次の有望市場に、日本のマンガ・アニメが加わる可能性があるのだ。

 しかし実際に今後の動向を左右しそうなのは、欧米でなくアジアである。先のサザビーズのオークションも、会場が香港であったことは重要な点だ。日本のポップカルチャーが長年人気を誇り、親しみを持って迎えられていたのは欧米よりむしろアジアである。

欧米で評価された「日本アート」、アジアに波及

 これには先例がある、現代アートで「具体派」と呼ばれた日本の作家・作品群である。現代アートと言っても「具体派」の活動が盛んだったのは1950、60年代、国内では大きな影響を与えたが、海外でほとんど知られなかった。ところが90年代に欧米の美術館やギャラリーで特集され、再評価されたことから価格がぐんぐん上がりだす。今ではちょっとした作品でも購入するには勇気のいる価格になっている。

 この「具体派」のコレクターは欧米よりむしろアジアに多い。近年、日本を代表するアーティスト草間彌生、奈良美智、村上隆氏のコレクターもまたアジアに多い。最初に評価をするのは欧米だが、購入の中心はアジアになっている。

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