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» 2019年12月05日 08時00分 公開

ジャーナリスト数土直志 激動のアニメビジネスを斬る:アトムにナウシカ……マンガ・アニメ原画が海外で1枚3500万円の落札も――文化資料の流出どう防ぐ (6/6)

[数土直志,ITmedia]
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厳重保管されていた作品の紛失原稿が高騰

 ながやす巧氏が作画を担当したマンガ『愛と誠』の原画が2018年、まんだらけのオークションにて400万円で落札された事件が一例だ。ながやす氏は長年原画を自身で管理し、市場での売買はほとんどなかった。そのなかで紛失原稿がオークションにかかり、希少価値から価格を引き上げた。厳重に管理すればするほど市場での評価額が高くなり、相続の際の負担を圧迫する。まとめて寄付をするにも、受け入れられる場所は多くなくシステムも未成熟である。

 日本で保存できなければ、海外で保存されるのは1つの解決策である。高額で購入する人は、それに見合った保管をするはずだ。

「海外でコレクション」される問題点

 しかしここにもいくつもの問題がある。1つは投機である。どんなアートやコレクションアイテムでも、市場に流通すればある程度の投機は避けられない。1枚1カット数百円〜数万円で描かれた動画・原画、マンガ原稿がとてつもない高額になれば、複雑な気持ちになる制作者も多いはずだ。

さらに文化の保存を市場価値に委ねる危険性もある。個人コレクションは特定の好みや傾向に左右されがちだ。大ヒットしたアニメやマンガの資料は人気が高く、高価になるがため大事に保管される。しかし必ずしも市場的な人気がなくても、貴重な文化記録・資料は数多い。そうしたものは「価値が低い」と顧みられないこともある。

またたとえ保存されても、どこに何があるか分からなければ研究も広く一般に紹介するような活用も出来ない。それこそが散逸である。

本来のアートであれば、研究者や美術館・ギャラリーが作品を把握し、時には「レゾネ」という全作品目録を編さんする。しかしさまざまなかたちで現場から離れたマンガ・アニメの資料は、一体、いつ、どのようなかたちで誰の手に渡ったのか把握できない。

 では実際にどのような解決策があるのか。まずは行政の役割になるだろう。本来は調査・保存・活用をする組織が必要とされるが、2009年に発表された、アニメやマンガ、ゲームの資料保存を目的とする国立メディア芸術総合センター構想は、プロジェクトの出し方のまずさもあり廃案になっている。近年新たに出されているメディア芸術ナショナルセンター構想も迷走気味だ。

『エヴァ』の庵野秀明監督ら立ち上がる

 こうしたなかで民間の立場から、貴重な資料を散逸することなく保存しようとする試みが始まっている。その1つが『エヴァンゲリオン』や『シン・ゴジラ』で知られる庵野秀明監督らが中心となる特定非営利活動法人・アニメ特撮アーカイブ機構(ATAC)である。もともとは庵野氏が、アニメ・マンガと並ぶ特撮分野の文化保存を目的にスタートした活動であった。やがて特撮だけでなく、アニメも含めた資料の収集・保存、さらに研究の組織としてATACを立ち上げた。

photo 2016年のATAC主催企画展(筆者撮影)
photo 2016年のATAC主催企画展(筆者撮影)
photo 2019年の新千歳空港国際アニメーション映画祭ATACトークイベント(筆者撮影)

 注目されるのは「特撮の神様」と言われた円谷英二氏の出身地である福島県須賀川市が、巨大なミニチュアを含んだ資料の保存場所を提供したことだ。民間の動きに地方自治体が協力する。国が法律や仕組みを整えることで、保存活動も促進できるだろう。

 もう1つ重要になるのが「現状把握」だ。現在はアニメ・マンガ作品そのもののデータ管理がようやく進みつつある。しかしその資料については手付かずである。大規模に保管することが難しくても、重要な資料だけでも誰が、何を、どこで保存しているかの把握はより手がつけやすい。

 その後はやはり行政による保管・保存になる。安心できる場所で、系統だって保管されれば、文化的な歴史資料となり、次世代のクリエティブにも活用できる。優品のかなり多くが海外に流出してしまい、国内に残った物も一部のコレクターによる努力で何とか集められてきた浮世絵の二の舞も避けられるだろう。

著者プロフィール

数土直志(すど ただし)

ジャーナリスト。メキシコ生まれ、横浜育ち。アニメーションを中心に映像ビジネスに関する報道・研究を手掛ける。証券会社を経て2004 年に情報サイト「アニメ!アニメ!」を設立。09年にはアニメビジネス情報の「アニメ! アニメ! ビズ」を立ち上げ編集長を務める。16年に「アニメ! アニメ!」を離れて独立。主な著書に『誰がこれからのアニメをつくるのか? 中国資本とネット配信が起こす静かな革命』 (星海社新書)。


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