アトムにナウシカ……マンガ・アニメ原画が海外で1枚3500万円の落札も――文化資料の流出どう防ぐジャーナリスト数土直志 激動のアニメビジネスを斬る(3/6 ページ)

» 2019年12月05日 08時00分 公開
[数土直志ITmedia]

 アジアは長年日本に近しい地域だが、日本に世界のアート評価を動かす力はない。そこでアジアの人々は、欧米のアートスタンダートに頼る。欧米で認められた日本文化がアジアに波及し、日本を飛ばして広がっていく。日本のマンガ・アニメの原画も欧米の美術館、オークションハウスのシステムに乗ることで、大きく変ろうとしている。

日本オークションでもマンガ・アニメ急増

 アートとしてマンガ・アニメをオークションが扱う流れは海外だけでない。日本のオークション会社が、マンガ・アニメ関連を扱う動きがここ1、2年で増えている。

 先駆けは国内の老舗シンワオークション(東京・中央)で、18年に初めて出品をマンガに絞った「MANGAオークション」を開始した。これが好評を博したことから現在では定期開催に向かっている。

 それまでもマンガやセル画を散発的に扱ってきた国内最大手の毎日オークション(東京・江東)は、今年12月に開催されるオークションで86点ものロットを用意する。手塚治虫だけでなく、スタジオジブリの各作品、『超時空要塞マクロス』『うる星やつら』などの往年の人気マンガ・アニメが中心だ。さらに驚くのはSBIアートオークション(東京・江東)だ。SBIは現代アートに特化したオークションとして知られるが、11月のオークションで12点のマンガ・アニメ関連の出品をしている。

 国内の動きは自らニーズを発見したというより、15年以降の海外の動きに影響されている。海外での取引実績が多く、高値がつく手塚治虫を積極的に扱っていることからもうかがえる。

 マンガ原画やアニメのセル画が取引されるのは、今に始まったことではない。昔はマンガ原稿が読者プレゼントに使われたし、セル画は番組制作後に売却したり、ファンへのプレゼントに利用されたりすることもあった。破棄されることも多く、そこから関係者やファンの手に渡った物もある。これらが古書店を中心に売買され、長い間それなりの流通市場を形成してきた。

 マンガ古書を売買するまんだらけが原画を本格的に扱うようになったのも大きい。この分野の大手として台頭し、2000年代に入る頃には販売だけでなく、より収益のあがるオークションを本格導入した。

 それらの購入は日本だけでなく海外からも多かったが、購入するのは一部のマニアだけであった。人気はあっても日本のマンガ・アニメの原画の価値が定まっていないからだ。

 10年代後半以降の動きが違うのは、美術館や大手オークション会社で扱われることで価値が裏付けられたことだ。購入側の心理的なハードルは下がり、今後はより広いファンが購入するかもしれない。マニアな場所から一般的な場所に飛び出すのは、日本のマンガ・アニメが10年代にポップカルチャーのメインストリームに踊り出したのにどこか似ている。

 原画・セル画がオークションに取り扱われる仕組みはこれで理解できる。では現在の価格は合理的なのだろうか。手塚治虫の3500万円は高いのか安いのか。それは一時の熱狂ではないだろうか。

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