アトムにナウシカ……マンガ・アニメ原画が海外で1枚3500万円の落札も――文化資料の流出どう防ぐジャーナリスト数土直志 激動のアニメビジネスを斬る(4/6 ページ)

» 2019年12月05日 08時00分 公開
[数土直志ITmedia]

億を超える数の原画素材が「高騰」するワケ

 毎週何百タイトルもの連載がある国内マンガは、これまで膨大な量の原画が描かれている。またアニメの中間素材も膨大である。テレビアニメ1話であれば300カット前後分の原画、動画枚数で数千枚から場合によれば1万枚を超える。さらに背景美術や設定。日本のアニメは誕生からこれまで1万1000タイトル以上、15万話を超える制作がなされてきた。単純に計算すれば億を超える素材が存在する。そんなに量があれば価値があると考えられないかもしれない。

 しかし実際は長い歴史のなかで破棄、散逸したものは驚くほど多い。またアートの世界ではあまりにも希少であるよりも、ある程度の量がある作家やジャンルの方が価格は上がりやすい。コレクションが可能でないと、十分な数のコレクターも生まれないからだ。

 また「コレクションされるものとされないもの」や「価値があがるものとそうでないもの」には大きな偏りがある。それは作品や作家の人気にも左右される。

恐るべきは「原画の海外大量流出」

 原画やセル画の取引が活発化することで、確実に起こりそうなのは海外流出である。海外のコレクターには豊富な資金を持つ者も多い。実際にかなり高額で取引されるある70年代のアニメ作品は、フランスの富豪のコレクターがいるとされている。そうでなくても、いまや日本のマンガ・アニメファンの総数は国内より海外が多いだろう。競争入札の場であるオークションに出れば、海外在住者に購入される可能性が高い。

 これまで既にかなりの量のマンガ・アニメの原画類が海外流出したと言われている。まんだらけでは、決算報告でオークションなどでは海外からの購入者が既に多く、拡大していると報告している。海外のサイトでは自身のコレクションを広く紹介するものもあり、その量と内容に驚かされる。もちろん一般公開しないケースがはるかに多いはずだ。それはかつて日本の浮世絵が国内で十分評価されない中で、海外に流出していった歴史を想起させる。

 日本の行政や関係企業は、これにどう対応しているのだろうか。

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