日本が狙われる ロシアのドーピング処分で暴れる「クマさん」の危険世界を読み解くニュース・サロン(5/5 ページ)

» 2019年12月12日 07時00分 公開
[山田敏弘ITmedia]
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「狙われた五輪」への対応が問われる

 五輪といっても、いったい誰が狙われるのか。対象は幅広く、筆者が実際に見たものでは、国内外で日本人個人が数多くターゲットになっている。狙い撃ちされて、スピアフィッシングメールなどを送りつけられている人たちもいる。ただ、それだけではない。

 攻撃者にとってインパクトのある攻撃を実施するなら、大手企業や重要な基幹産業が狙われる。もちろん、東京五輪の運営側のシステムは、ロシアに限らず標的になり得るし、東京五輪に協賛するスポンサー企業や出入り業者、サプライチェーンの中で関与している関連企業なども標的になる可能性が十分にある。すでに、こうしたいくつかの企業では、他国のハッカーに侵入されてしまっているケースもあると聞く。とにかく、ロシアや中国、北朝鮮などに限らず、どんなところから、どんな手法でサイバー攻撃を仕掛けてくるか分からない。徹底した対策を施す必要があるということだ。

 五輪の組織委員会などの関係機関は今、かなりセキュリティ対策に力を入れているはずだ。平昌の二の舞になっては困る、と。ただ、そんなピンチは、考え方によってはチャンスにもなり得る。

 NHKは11月18日、「東京オリンピック・パラリンピックに向け、サイバー攻撃への対処が課題となる中、大会の開会式直前に重要なインフラがサイバー攻撃を受けたことを想定して、過去最多のおよそ5000人が参加した政府の演習が行われました」と報じている。電気やガス、情報通信など重要インフラの対策も強化しているという。

 また、ある関係者は筆者に「中継で放送を世界に流す日本は、中継映像が止まるようなことがあってはならないと神経質になっている」と語っていた。契約上、莫大な賠償問題にもなる可能性があるため、そうした分野でも徹底したサイバー対策が求められるらしい。

 世界的に見ても、日本はサイバーセキュリティの分野で恵まれた環境にある。停電などがしょっちゅう起きるようなことはないし、かなりマニアックなソフトや機器でも何だって手に入る。そんな日本だからこそ、ぜひ東京五輪に関わるサイバーセキュリティの堅固さを世界にアピールできるよう、狙われた五輪でその力を発揮してもらいたいと願う。せっかくのチャンスなのだから。

筆者プロフィール:

山田敏弘

 元MITフェロー、ジャーナリスト、ノンフィクション作家。講談社、ロイター通信社、ニューズウィーク日本版に勤務後、米マサチューセッツ工科大学(MIT)でフルブライト・フェローを経てフリーに。

 国際情勢や社会問題、サイバー安全保障を中心に国内外で取材・執筆を行い、訳書に『黒いワールドカップ』(講談社)など、著書に『ゼロデイ 米中露サイバー戦争が世界を破壊する』(文藝春秋)、『モンスター 暗躍する次のアルカイダ』(中央公論新社)、『ハリウッド検視ファイル トーマス野口の遺言』(新潮社)がある。最新刊は『CIAスパイ養成官 キヨ・ヤマダの対日工作』(新潮社)。テレビ・ラジオにも出演し、講演や大学での講義なども行っている。


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