大戸屋が炎上した背景に、ブラック企業と日本軍の深い関係スピン経済の歩き方(5/5 ページ)

» 2019年12月17日 08時04分 公開
[窪田順生ITmedia]
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組織として「数を合わせる」

一下級士官の見た帝国陸軍』(著・山本七平/文春文庫)

 要するに、数の帳尻のことだ。先ほどの私的制裁が分かりやすいが、日本軍は「員数」さえ合えば、実態が異なっていても問題なしという考えがまん延していた。だから、勝ち目のない戦地や、意味のない神風特攻にも「員数合わせ」で若い兵士を次々に送り込んだ。自ら血を流さない大本営からすれば、戦争は足りないところへ戦力を送り込む「数を合わせゲーム」になっていたのだ。

 山本氏はこの帝国陸軍が毒された「員数主義」が戦後の日本企業にもしっかりと受け継がれているとみていた。報道対策アドバイザーとして、事実の隠ぺいや数字を改ざんをする企業を間近に見るようになると、山本氏の言っていることを身をもって感じるようになった。

 真面目そうな中間管理職や、現場の人が私利私欲のためではなく、平気でうそをつく。数字の帳尻を合わせる。「なんでそんなことをしちゃったんですか」と尋ねても、「会社のためです」「良かれと思って」と言う。もちろん、上から直接命令を受けたケースもあるが、ほとんどは誰に言われるまでもなく、組織人として当たり前の行為として、自発的に「帳尻合わせ」を手を染めるのだ。

 前出の『一下級士官の見た帝国陸軍』には、フィリピンでの従軍経験後、自分が勤める老舗デパートが経営不振から大資本に「無条件降伏」した際に語った以下のような言葉が紹介されている。

 「日本軍と同じですよ。重役の不可能命令と下部の員数水増し報告で構成された虚構の世界が崩れたということでネ。それだけですよ」

 ものづくり企業におけるデータ改ざん、日本を代表する企業の利益のかさ上げ、高級官僚たちによる公的文書の隠ぺい、そして「残業を減らす、パワハラをなくす」と叫べば叫ぶほど浮かび上がる醜悪な現実……いよいよ虚構の世界が総崩れになってきたように感じるのは、筆者だけだろうか。

窪田順生氏のプロフィール:

 テレビ情報番組制作、週刊誌記者、新聞記者、月刊誌編集者を経て現在はノンフィクションライターとして週刊誌や月刊誌へ寄稿する傍ら、報道対策アドバイザーとしても活動。これまで300件以上の広報コンサルティングやメディアトレーニング(取材対応トレーニング)を行う。

 近著に愛国報道の問題点を検証した『「愛国」という名の亡国論 「日本人すごい」が日本をダメにする』(さくら舎)。このほか、本連載の人気記事をまとめた『バカ売れ法則大全』(共著/SBクリエイティブ)、『スピンドクター "モミ消しのプロ"が駆使する「情報操作」の技術』(講談社α文庫)など。『14階段――検証 新潟少女9年2カ月監禁事件』(小学館)で第12回小学館ノンフィクション大賞優秀賞を受賞。


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