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同一労働同一賃金が開く“パンドラの箱”――派遣業界に突き付けられる退職金問題人事ジャーナリスト・溝上憲文の「経営者に告ぐ」(2/5 ページ)

» 2019年12月25日 05時00分 公開
[溝上憲文ITmedia]

「労使協定方式」でも「退職金支払」からは逃れられない

 省令に基づく「労使協定方式」における派遣労働者の賃金の最低基準額を示した局長通達が今年7月に出され、その内容に驚いた派遣会社も多い。「基本給・賞与等」「通勤手当」「退職金」の3つについて支給水準が定められている。

photo 「基本給・賞与等」「通勤手当」「退職金」の3つについて支給水準が定められている

 例えば基本給・賞与の指標となるのは、厚生労働省の「賃金構造基本統計調査」とハローワークの求人賃金の「職業安定業務統計」に基づいた一般労働者の職種別平均賃金(時給換算)だ。それぞれ職種別の「基準値(0年)」と、基準値に「能力・経験調整指数」とを乗じた1年、2年、3年ごとの時給が示されている。これとは別に都道府県別・ハローワーク別の「地域指数」がある。

 賃金は職種別基準値×能力・経験調整指数×地域指数で算出される。この時給賃金には賞与や諸手当も加味されていて、基準値0年は未経験者が適用される。つまり労使協定方式を採用する場合、示された金額を最低基準として、自社の派遣社員の賃金を決めることになる。例えばプログラマーの場合、職種別基準値×能力・経験調整指数(0年)×地域指数(東京・池袋)は1393円。経験2年で1616円、5年で1934円、10年で2277円となる。この金額以上の時給を支払う必要がある。

 さらに、これに加えて通勤手当は当然として、退職金も支払わなければならない。じつは2018年12月28日に出された同一労働同一賃金ガイドラインでは、基本給、賞与、役職手当などについては具体的な判断基準を示している一方、退職金には触れてはいない。ただし「基本的考え方」の中に「この指針に原則なる考え方が示されていない退職手当、住宅手当、家族手当等の待遇や、具体例に該当しない場合についても、不合理と認められる待遇の相違の解消等が求められる」と書いている。

 均等・均衡待遇原則からいえば、退職金もその性質や目的に照らして検証し、不合理な待遇差があれば支払う必要がある。だが、基本給や賞与はともかく、退職金制度がない企業も少なくない。実際に退職金制度のない企業は22.2%(厚生労働省「就労条件総合調査」)もあり、中小企業になると、その比率も高くなる。

 正社員に退職金がない企業は当然、自社の非正社員に支払う必要はないが、労使協定方式を採る派遣会社は支払う必要がある。なぜなら「労使協定方式で比較するのはあくまでも一般労働者の平均的な水準であり、法律の趣旨に沿って平均的な退職金と同等以上を支払う必要がある」(厚労省担当者)からだ。支給方法の選択肢は以下の3つである。

(1)勤続年数などによって決まる一般的な退職金制度を適用する

(2)時給に6%を上乗せする退職金前払い方式

(3)中小企業退職金共済制度など退職年金制度に加入している場合は掛金を給与の6%以上にする

photo 退縮金の取り扱い。3つの中から労使の協議によって決定しなけらばならない

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